従業員の福利厚生の充実や離職率防止という面からも、退職金制度の導入を検討されている経営者や役員、総務・人事担当の方は多いのではないでしょうか。
さらに、経営者や役員、事業主の方であれば、ご自身の退職金積み立てや老後の備えについて真剣に考えている方も多いのではないかと思います。
ところが、いざ退職金制度について検討しようとすると、「確定給付企業年金」「確定拠出年金」、さらには「保険」とさまざまな制度や種類があり、全体を俯瞰してどのような制度や選択肢があるのか、それぞれどのような特徴や違いがあるのかよく分かりません。
また、経営者や役員、事業主の場合、加入できない制度もあります。
そこで本記事では、そのような「経営者や役員、事業主」、または総務・人事など「企業の担当者」にフォーカスして、
- 経営者や役員、事業主も加入できる退職金制度や退職金準備の方法
- 企業、とくに中小企業も導入できる退職金制度や退職金準備の方法
についてまとめ、それぞれの特徴やメリット・デメリットを解説していきます。
※こちらの記事は2022年11月に更新しました。
- 退職金制度の導入や乗り換えをご検討の方へ
- 中小企業を中心に、導入が増えている注目の企業年金・退職金制度「はぐくみ企業年金」。 福利厚生の充実だけでなくコスト削減効果も期待できるなど、従業員、経営者、会社それぞれにメリットが生まれるとても人気の制度です。>>詳しくはこちら
目次
退職金制度の概要
まずは、退職金や退職金制度についてのおさらいから。
退職金制度についての基礎知識や、企業(会社や法人)として退職金制度を導入するメリットなどは、大きくまとめると以下のようになります。
退職金の整備や制度の導入に法的な義務はない
大手企業のイメージによる影響で、多くの人は退職後に退職金を受け取ることができると考えていますが、実は民間企業の場合、退職金制度の整備や退職金の準備は法律によって義務付けられている制度ではありません。
退職金制度の導入は、各企業がそれぞれ自由に選択できます。
なかでも日本の企業の9割以上を占めるのは中小企業ですが、中小企業にとってその負担は決して軽いものではなく、そのため退職金制度の導入に二の足を踏んでいる経営者や役員、事業主の方は多いのではないでしょうか。
とはいえ、後述の通り、9割近くの企業が退職金制度を導入するなど、退職金制度の整備や制度の導入はいわばスタンダードになっており、とくに優秀な人材の確保や従業員の定着という面からも、軽視できるものではないといえるかもしれません。
約9割の企業が退職金制度を導入
実際、どれくらいの企業や会社が退職金制度を導入しているのでしょうか。
人事院の調査(民間の退職金及び企業年金の調査結果[平成29年])によると、企業規模50人以上の民間企業41,963社のうち、層化無作為抽出法によって抽出した7,355社について調べたところ、「退職給付制度がある」と回答した企業は92.6%という結果になりました。
そのうち、「退職一時金制度のみ」がある企業の割合は48.3%、「企業年金制度のみ」がある企業の割合は12.0%、「退職一時金制度と企業年金制度を併用」している企業の割合は39.6%となっており、退職一時金制度がある企業の割合は88.0%(平成23年調査では86.9%)、企業年金制度がある企業の割合は51.7%(平成23年調査では59.9%)となっているようです。
なお、「退職一時金」は退職する際に一括で支給されるもので、「企業年金」(退職年金)は、退職後一定期間または生涯継続的に給付されるものになります。
状況 | 割合 |
---|---|
「退職給付制度がある」と回答した企業 | 92.6% |
退職一時金制度がある企業 | 88.0% |
企業として退職金制度を導入するメリットとは?
人材の確保や維持・定着という面からも退職金制度の導入は優先的に必要そうであるとはいえ、企業や会社からみて他にどのようなメリットがあるのでしょうか。
例えば、以下のような点が挙げられます。
- 良い人材の獲得につながる
- 離職率、とくに早期離職率の低下につながる
- 不景気などで雇用調整が必要になった場合、早期退職を促す施策として活用できる
- 節税効果が期待できる
退職金制度があることによって、求人募集への応募数の増加につながったり、あるいは応募数の減少を未然に防いだり、その後、面接から最終面接まで進んだ内定者や内定見込み者が他社に心変わりしてしまうことへの回避につながるなどのメリットが挙げられます。
さらに、例えば退職金の支給に最低勤続年数という条件が設定されていれば、結果として早期離職を思い止せるようなインセンティブ効果も期待できます。
どのような基準や目的で選んだらよいか?
では、実際、どのような基準や目的で選んだらよいのでしょうか。
とくに、会社や役員を含めた経営者目線で考えると、次のような点が参考になるかもしれません。
- 積み立て金(掛金や元本)の減るリスクやリターンはどの程度見込まれるか
- 資産運用を自己責任で行えるか、あるいは他の方法がよいか
- そのまま貯蓄するよりも税金などの負担が軽くなるか
- 従業員の福利厚生や離職率の減少に資することができるか
- 中小企業でも導入できるか
- 経営者や役員の退職金制度として活用できるか
具体的にどのような退職金制度や選択肢があるのか?
以上を踏まえた上で、それでは具体的にどのような退職金制度や選択肢があるのでしょうか。
まず、「企業年金」に分類されるものとして、「確定給付企業年金」(DB)、「企業型確定拠出年金」(企業型DC)、「厚生年金基金」の3種類があります。また、「個人年金」に分類されるもののひとつとして「個人型確定拠出年金制度」(iDeCo/イデコ)があります。
これらは「国民年金」や「厚生年金」など、国が運営する「公的年金」と分けて「私的年金」とも呼ばれていますが、この記事では便宜上、「確定給付企業年金」(DB)に分類されるもの、「確定拠出年金」(DC)に分類されるもの、「厚生年金基金」というグループに分けて紹介させていただきます。
さらに、こららに加えて、「共済」に分類されるもの、「保険」に分類されるもの(保険を活用するもの)についても、それぞれの制度や特徴について掘り下げていこうと思います。
└ はぐくみ企業年金(福祉はぐくみ企業年金基金)
└ 「規約型」の確定給付企業年金
「確定拠出年金」(DC)型の退職金制度
└ 企業型確定拠出年金(企業型DC)
└ iDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)
└ 中小事業主掛金納付制度(iDeCo+/イデコプラス)
厚生年金基金
「共済」型の退職金制度
└ 中小企業退職金共済(中退共)
└ 小規模企業共済
└ 特定退職金共済制度(特退共)
「保険」を活用した退職金準備
└ 逓増定期保険
└ 長期平準定期保険
└ 養老保険
【各制度の詳細解説の前に】主要退職金制度の比較一覧
次項から、各退職金制度や企業年金制度などの詳細をご案内する前に、各制度の概要や特徴を一覧化してまとめたものが次の表組になります。
こちらもご参考ください。
確定拠出年金 (企業型DCやiDeCo) |
はぐくみ企業年金 | 中小企業退職金共済制度 | 小規模企業共済 | |
---|---|---|---|---|
種別 | 確定拠出年金 | 確定給付企業年金 | 退職金共済 | 退職金共済 |
任意加入 | 可能 | 可能 | 全員加入 (対象は従業員のみ) | ― (対象は経営者/役員) |
加入年齢 | 70歳未満 | 70歳未満 | 制限なし | 制限なし |
加入制限 | 役員も拠出可 | 役員も拠出可 | 役員は拠出不可 | 小規模企業の経営者又は役員 |
税制優遇 | 有り | 有り | 有り | 有り |
社会保険料 | 企業型DCの場合、軽減可 (※1) | 軽減可 (※2) | 軽減不可 | 軽減不可 |
掛金拠出 | 企業型DCの場合、会社が負担 (※1) | 会社の実質的な負担を抑制 (※2) | 会社が負担 | 加入者が負担 |
拠出金上限/月 | 1,000円~55,000円 | 1,000円~給与の20% (上限40万円) | 5,000円~30,000円の16段階 (※3) | 1,000~70,000円の範囲 |
運用 | 個人が掛金を運用 |
基金が掛金を運用 |
機構(※4)が資産管理・運用 | 機構(※4)が資産管理・運用 |
受給額 | 運用成績により変動する |
運用成績により変動しない |
運用成績により変動しない | 運用成績により変動しない |
受取り | 一時金又は年金/ 但し、原則60歳以上に制限 | 一時金又は年金/ 退職時、休職時、 育児・介護休業時にも受取り可能 | 一時金又は分割払い/ 退職後に受取り可能 | 一時金又は分割払い/ 退職後に受取り可能 |
※2:「選択制(既存の給与の一部を前払い退職金に変更し、従業員ひとり一人がその前払い退職金の受取り方を選択できる制度)」による効果です。はぐくみ企業年金は選択制の採用を前提としています。
※3:パートタイマーなど短時間労働者の場合、特例掛金月額として2,000円から可能になります。
※4:ここでは「独立行政法人 勤労者退職金共済機構」または「独立行政法人 中小企業基盤整備機構」を「機構」といいます。
「確定給付企業年金」(DB)型の退職金制度
確定給付企業年金は、確定給付企業年金法により設立された厚生労働省所管の企業年金制度で、厚生労働省の資料によると、確定給付企業年金(DB)は2022年度末時点で約911万人が加入するなど、さまざまな年金制度のなかで最も多くの利用実績がある制度です。
また、基金型の確定給付企業年金と規約型の確定給付企業年金の2種類があります。
基金型:はぐくみ企業年金(福祉はぐくみ企業年金基金)
従業員×経営者/役員×会社の三方にメリットが生れる企業年金・退職金制度
会社掛金の負担を抑えつつ、従業員だけでなく経営層の方も加入できます
概要
基金型の確定給付企業年金(DB)に分類される企業年金・退職金制度として、現在導入や加入が増えているのが「はぐくみ企業年金」(正式名称:福祉はぐくみ企業年金基金)です。
もともと福祉や医療業界の退職金制度や福利厚生のために誕生しましたが、現在ではさまざまな業界業種で利用されています。
また、後述する確定拠出年金(DC)などとの併用も可能です。
導入企業・事業主のメリット
導入を検討する企業や事業主から見たメリットは、次のような点が挙げられます。
1:掛金の実質的な負担を抑えながら導入できる
退職金制度を導入しようとする場合、毎月掛金の支払いが必要になりますが、他の一般的な企業年金制度や共済制度と異なり、この掛金について企業や事業主の負担を抑えることができます。
はぐくみ企業年金を導入する際、「前払い退職金制度」及び「選択制」という仕組みを採用しますが、このような制度設計によって会社負担の抑制が可能になります。
また、合わせて減額した給与と同額の「選択給」というものを創設しますが、従業員など加入者はこの選択給の一部を掛金にしたり、残りを給与としての受け取りにするといった選択もできるようになります(この仕組みや制度を「選択制確定給付企業年金」といいます)。
もちろん、従業員など加入者は、はぐくみ企業年金に加入せずこの選択給分をそのまま給与として受け取ることも可能です。
※はぐくみ企業年金そのものが掛金の実質的な負担を抑えるものではありません。
2:法定福利費の軽減も可能
上記でも説明した「前払い退職金」及び「選択制確定給付企業年金」という制度設計によって、副次的に法定福利費の軽減にも繋がっていくことになります。
例えば、社会保険料は労使折半となりますが、従業員など加入者が負担する社会保険料が軽減されると、同時に会社や事業所が負担する分の軽減にもつながるものになります。
※はぐくみ企業年金そのものが法定福利費の負担を軽減させるものではありません。
3:中小企業も導入可能/業界業種も不問
従業員数が少ない中小企業も導入することができます。
また、福祉や保育、医療以外の業界業種も導入可能です。
加入者のメリット
加入者(主に従業員など)から見たメリットは、次のような点が挙げられます。
1:掛金の元本が保証される
加入者の掛金の元本は保証されます。また、はぐくみ企業年金は確定給付企業年金に属する退職金制度のため、限りなく元本割れがし難い仕組みになっています。
また、実際の資産運用は、安全性が高い生保一般勘定などを中心に、「複数の国内大手生命保険会社」による委託運用の形式となっており、さらに、「キャッシュバランスプラン」を採用するなど、リスクを最小化しています。
※キャッシュバランスプランとは、給付額が国債等の利回りによって決定される制度で、積立不足が発生しにくいのが特徴です。
2:数年で退職した場合でも、元本を棄損せずに給付を受け取れる
確定拠出年金(企業型DCやiDeCo)などと同様、高齢期の資産形成を目的とした制度ですが、それらの制度と異なり、いわゆる退職後にも受け取れます。
また、仮に数年で退職してしまった場合でも給付を受け取ることができ、さらに、休職や育児・介護休業時にも受け取りが可能です。
なお、ほかの制度の場合、運用成績や掛金年数などによって元本割れが発生するケースもありますが、はぐくみ企業年金の場合、加入1ヶ月以上で退職された場合においても、積立額の全額を受け取れます。
3:毎月の所得税、住民税などの負担を軽減しながら資産作りができます
上記の「導入企業・事業主のメリット」でも紹介した、「前払い退職金」及び「選択制確定給付企業年金」という制度設計によって、結果として毎月の所得税などの負担を軽減できるようになります。
また、このような負担を抑えながら、退職金の資産づくりが行えます。
※はぐくみ企業年金そのものが税金などの負担を軽減させるものではありません。
4:受け取り時に税制優遇が適用
退職金として受け取る場合、一時金(退職所得)としての受け取りとなり、「退職所得控除」が適用されます。
また、休職・休業時に受け取る場合も、一時金(一時所得)としての扱いになり、50万円まで非課税で受け取れます。
一方、加入期間が20年以上になると年金として受け取ることができ、年金として受け取る場合は雑所得として「公的年金等控除」が適用されます。
5:経営者や役員も制度への加入が可能
はぐくみ企業年金の加入対象者は厚生年金被保険者になります。
厚生年金被保険者であれば、経営者や役員層の方もはぐくみ企業年金に加入することができます。
デメリット
企業や事業主、加入者(主に従業員など)から見たデメリットは、次のような点が挙げられます。
1:社会保険からの給付(社会保障給付)が減少する可能性がある
上記の「加入者のメリット」として社会保険料の負担軽減を挙げましたが、毎月納める社会保険料が低くなれば、その分、将来社会保険からの給付(社会保障給付)が減少してしまうことを意味します。
例えば、雇用保険の失業給付は直近6ヶ月の給与に比例した手当が支給されますので、給付額に影響が出る可能性があります。老齢給付金についても同様です。
但し、一般的に軽微の影響になるケースがほとんどです。
2:企業や事業主の負担が発生する可能性がある
仮に給付時に積立不足が発生してしまった場合、企業や事業主が不足分を補填する必要が出てくる可能性があります。
ただし、加入者のメリットの1での説明のとおり、はぐくみ企業年金は「複数の国内大手生命保険会社へ委託運用」、「資産保全性の高いポートフォリオ」、「キャッシュバランスプラン」によって、限りなく元本割れがしにくい仕組みによってリスクを最小化しており、安心できるといえるかもしれません。
参考リンク
「規約型」の確定給付企業年金
「規約型」の確定給付企業年金は、上記の基金のような機関を活用せず、企業や事業主が主体となって実施する制度で、企業や事業主と従業員が合意した年金規約に基づいて実施していく企業年金制度です。
とくに、企業や事業主は、直接、金融機関(信託銀行や生命保険会社など)と資産管理運用契約を締結して年金資産を管理・運用していく必要があるなど、制度の導入から実際の運用まで多くの労力や時間を要する点が大きなネックといえるかもしれません。
主なポイント
- 労使と合意の上、年金規約を準備する
- 労使合意された規約を厚生労働省に提出し、厚生労働大臣より承認を得る必要がある
- 資産運用は、信託銀行や生命保険会社などに委託する(年金資産の管理・運用契約を締結)
- 事務的な作業の負担が増える(自社の担当部署などでの負担が増える)
- 規約型に限らないが、途中で規約の変更などが発生する場合、労使合意が必要になる
- 規約型に限らないが、定期的に従業員へ情報開示を行う必要があり、厚生労働大臣への報告も行う必要がある
(掛金の納付状況や資産の運用状況、財務状況など)
参考リンク
「確定拠出年金」(DC)型の退職金制度
確定拠出年金(DC)は積立型の年金制度で、企業や事業主及び従業員(加入者)が毎月掛金を拠出し、加入者自身が資産を運用していくことで、その運用成績次第で将来の年金受取額も変動していく制度です。
企業が導入する「企業型確定拠出年金(企業型DC)」と、個人で加入する「個人型確定拠出年金(iDeCo)」、さらに、「中小事業主掛金納付制度(iDeCo+(イデコプラス))」の3つが検討候補になります。
なお、あらかじめ設定した掛金を拠出するという意味から、「確定拠出」と呼ばれています。
企業型確定拠出年金(企業型DC)
会社の掛金をベースに、従業員など加入者自身が年金資産を運用
上手に運用できれば、将来、積立金以上の運用益が期待できます
概要
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは、企業が掛金を拠出して毎月掛金を積み立てて、従業員など加入者自身が年金資産の運用を行う制度です。
従業員など加入者は、掛金をもとに運用商品の選択を行って資産運用を行い、定年退職が近くなる60歳以降に、積み立てた年金資産を「一時金」(退職金)又は「年金」の形式で受け取れるようになります。
また、原則60歳以降にならないと積み立てた年金資産を引き出すことができない点が注意点になります。
導入企業・事業主のメリット
導入を検討する企業や事業主から見たメリットは、次のような点が挙げられます。
1:事業主が拠出する掛金を全額損金扱いにすることが可能
法人税法上、会社が毎月拠出する掛金は全額損金扱いにできます。
2:仮に積立金を下回ってしまっても、会社が補てんする必要はない
企業型確定拠出年金(企業型DC)の場合、給付額は従業員など加入者ご自身の運用成績によって変動しますが、運用によって積立金を下回ったとしても、その分を会社が補てんする義務や必要はありません。
加入者のメリット
加入者(主に従業員など)から見たメリットは、次のような点が挙げられます。
1:積み立てた掛金が非課税
会社として拠出された掛金(事業主掛金)は、個人の所得扱いにならず非課税になります。
また、従業員など加入者が掛金に上乗せして拠出できる制度である「マッチング拠出」については、課税の際に全額所得控除の対象となります。
2:運用益が非課税
運用によって利益が出た場合、全額非課税扱いになります。
通常、投資信託をはじめとする金融商品で運用する場合、運用益が発生すると約20%課税されますが、企業型確定拠出年金(企業型DC)によって得た運用益についてはこの分に税金がかかりません。
3:受け取り時に税制優遇が適用
これまでの積み立て金(運用益なども含む)は、60歳以降に「年金」や「一時金」で受け取れるようになりますが、この受け取りの際、どちらの場合でも税制優遇が適用されます。
年金として受け取る場合は雑所得として「公的年金等控除」が適用され、一時金として受け取る場合は退職所得として「退職所得控除」が適用されます。
4:経営者や役員も制度への加入が可能
経営者や役員も加入することができます。
また、従業員も含めた加入者の掛金(拠出額)の上限については、企業型確定拠出年金(企業型DC)のみに加入している場合、月額5万5000円までが上限になり、確定給付年金(DB)も併用して加入している場合、月額2万7500円までが上限になります。
デメリット
企業や事業主、加入者(主に従業員など)から見たデメリットは、次のような点が挙げられます。
1:60歳まで年金資産を引き出すことができない
企業型確定拠出年金(企業型DC)は、原則60歳になるまで積み立てた年金資産を引き出すことができません。
2:元本割れのリスクがある
例えば投資信託など、元本変動型の運用商品を選んだ場合など、運用商品の選択次第で元本割れを起こしてしまうリスクが発生します。
そういった面からも継続的に金融や投資についての学習が必要になります。
3:従業員など加入者への投資教育が必要
法令上、企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入した企業には、加入者となる従業員に対して継続的に制度や金融、投資についての教育が義務づけられています。
とくに、加入者となる従業員が意欲的に加入しようとする上でも、事前に制度のリスクや不安の面の解消も大切になってくることと思われます。
4:とくに中小企業では普及率が低い
厚生労働省より公表されている「第9回 社会保障審議会 企業年金・個人年金部会 資料」などからも、とくに中小企業の普及が課題となっているようです。
これらの一因として、運用上のリスクなど上記で紹介した各デメリットや、掛金を含めた支出及びコストの問題、あるいは引き受け手となる金融機関の問題など複数の原因が考えられるかもしれません。
参考リンク
iDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)
会社や法人とは関係なく、個人として加入し年金資産を運用
掛金をはじめとしてさまざまな税制優遇があります
概要
iDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)とは、自分で老後資金を作るための年金制度です。
加入者が毎月掛金を積み立てて(掛金の拠出)、その掛金をもとに運用商品の選択を行って資産運用を行い、60歳以降に積み立てた資産を「一時金」(退職金)又は「年金」の形式で受け取ります。
また、企業型確定拠出年金(企業型DC)同様、原則60歳以降にならないと積み立てた資産を引き出すことができないのが注意点です。
導入企業・事業主のメリット
iDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)は個人として加入する制度(個人年金)のため、企業や事業主から見たメリットはとくにありません。
加入者のメリット
加入者から見たメリットは、次のような点が挙げられます。
1:積み立てた掛金が所得控除の対象になる
iDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)で積み立てる掛金は、全額所得控除の対象になります。
年間で拠出した掛金の総額を総所得から差し引くことができるため、その分の所得税と住民税が軽減されます。
また、掛金全額が小規模企業共済等掛金控除の対象となります。
2:運用益が非課税
企業型確定拠出年金(企業型DC)同様、運用によって利益は全額非課税扱いになります。
通常、投資信託をはじめとする金融商品で運用益が発生すると約20%課税されますが、iDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)の場合、運用益はすべて非課税となります。
3:受け取り時に税制優遇がある
企業型確定拠出年金(企業型DC)同様、受け取り時に税制優遇が適用されます。
運用益なども含めたこれまでの積み立て金は、60歳以降に「年金」や「一時金」で受け取れるようになりますが、年金として受け取る場合は雑所得として「公的年金等控除」が適用され、一時金として受け取る場合は退職所得として「退職所得控除」が適用されます。
4:経営者や役員も制度への加入が可能
iDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)は原則として日本に在住しており、20歳以上60歳未満の方で、国民年金や厚生年金などの公的年金に加入している方が加入条件になりますので、経営者や役員の方ももちろん加入することができます。
ただし、注意点として自営業者の場合、国民年金保険料の全額または一部を免除されている方はiDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)に加入できません。
デメリット
加入者から見たデメリットは、次のような点が挙げられます。
1:60歳まで年金資産を引き出すことができない
企業型確定拠出年金(企業型DC)同様、積み立てた年金資産は原則60歳になるまで引き出すことができません。
また、60歳で引き出すには10年以上加入していることが条件になります。なお、原則として中途解約はできませんが、「加入者掛金額変更届」の提出のうえ、年に1回掛け金の変更は可能です。
2:元本割れのリスクがある
企業型確定拠出年金(企業型DC)同様、投資信託をはじめておして元本変動型の運用商品を選んだ場合、今後の運用状況次第で元本割れを起こしてしまうリスクがあります。
参考リンク
【外部リンク】iDeCo公式サイト
中小事業主掛金納付制度(iDeCo+/イデコプラス)
iDeCo(イデコ)をベースにした中小企業向けの制度
従業員などが拠出する掛金に企業が上乗せする制度です
概要
中小事業主掛金納付制度(iDeCo+/イデコプラス)とは、従業員300人以下中小企業向けの制度で、iDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)に加入している従業員などが拠出する掛金に企業が上乗せして、掛金を拠出できる制度です。
ただし、これまで紹介してきた「企業年金」(確定給付企業年金、企業型確定拠出年金、厚生年金基金)を導入していない中小企業に限られます。
※2020年10月、従業員要件が100人以下から300人以下に変更されました。
導入企業・事業主のメリット
導入を検討する企業や事業主から見たメリットは、次のような点が挙げられます。
1:事業主が拠出する掛金を全額損金扱いにすることができる
企業型確定拠出年金(企業型DC)同様、会社として毎月拠出する掛金については全額損金扱いにできます。
2:仮に積立金を下回ってしまっても、会社が補てんする必要はない
企業型確定拠出年金(企業型DC)同様、運用によって積立金を下回ったとしても、その分を会社が補てんする義務や必要はありません。
3:全従業員を対象としなくてよい
規定で対象とする従業員を定めることができるため、全従業員を対象とする必要がありません。また、その分費用も抑えられます。
4:企業型確定拠出年金(企業型DC)に比べると導入しやすい
従業員のiDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)に上乗せして拠出する制度のため、企業型確定拠出年金(企業型DC)に比べると導入しやすいと思われます。
また、運営管理手数料などについても、従業員負担となり企業の負担にはならない点も魅力的かもしれません。
加入者のメリット
基本的に、iDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)と同様のメリットを享受できます。
また、経営者や役員も同制度を活用して加入可能です。
詳しくは、「iDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)」の「加入者のメリット」を参照ください。
デメリット
iDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)と同様、「60歳まで年金資産を引き出すことができない」ことと、「元本割れのリスクがある」こと以外に、企業や事業主、加入者(主に従業員など)から見たデメリットは、次のような点が挙げられます。
1:iDeCoに加入していない従業員は利用できない
iDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)に加入している従業員が対象の制度になりますので、加入していない従業員は、中小事業主掛金納付制度(iDeCo+/イデコプラス)を利用することができません。
そのため、加入者と非加入者との間で待遇差が生れてしまい、従業員の不満となる可能性があります。
2:労使合意による会社の規約の定めが必要
中小事業主掛金納付制度(iDeCo+/イデコプラス)を開始するには労使合意を取り付ける必要がありますが、この合意に至るまでに時間や労力がかかります。
また、事業主掛金を変更する場合にも労使合意が必要になります。
参考リンク
【外部リンク】iDeCo公式サイト
厚生年金基金
厚生年金基金は「企業年金」のひとつで、企業が厚生労働大臣の認可を受けて設立する法人で、国の年金給付のうち老齢厚生年金の一部を代行し、厚生年金基金が上乗せをして年金給付が行われる制度です。
ただし、運用環境の悪化などによって、2014年以降、厚生年金基金の新規設立は不可能となり、先述した確定給付企業年金への移行が進めらています。
厚生年金基金は、事実上その役割を終えたといえるかもしれません。
「共済」型の退職金制度
共済型の退職金制度には、「中小企業退職金共済(中退共)」、「小規模企業共済」、「特定退職金共済制度(特退共)」の3つが候補になります。
このうち、経営者向けのものは「小規模企業共済」となり、ほか2つは従業員のみが加入できる制度になっています。
中小企業退職金共済(中退共)
中小企業向けの退職金制度で加入対象は従業員のみ
掛金の助成があるなどメリットもあるが、デメリットにも注意
概要
中小企業退職金共済(中退共)とは、独力では退職金制度を設けることが難しい中小企業のために中小企業者の相互扶助の精神に基づいて誕生した退職金制度で、厚生労働省所管の独立行政法人勤労者退職金共済機構 中小企業退職金共済事業本部(中退共)が運営しています。
中小企業の事業主が契約対象となって退職金共済契約を締結て、事業主は毎月金融機関に掛け金を支払い、従業員の退職金を社外に積み立てていきます。
従業員が退職した場合に支払われる退職金は、中小企業退職金共済から支払われます。
導入企業・事業主のメリット
導入を検討する企業や事業主から見たメリットは、次のような点が挙げられます。
1:掛金を全額損金扱いにすることができる
従業員の掛金は企業や事業主が負担しますが、この分を全額損金扱いにできます。
2:国によって掛金の一部が助成される
新規で中小企業退職金共済(中退共)に加入すると、掛金の半分(従業員ごとに上限5,000円)を加入後4ヵ月目から1年間、事業主に対して国が助成します。
また、掛金月額が18,000円以下の従業員の掛金を増額する場合についても、掛金を増額する事業主に対して、増額分の3分の1を1年間、国から助成されるようになります。
3:従業員に福利厚生サービスを提供できる
中小企業退職金共済(中退共)の加入者(被共済者)は、中小企業退職金共済(中退共)と提携している宿泊施設やレジャー施設の割引など福利厚生サービスを受けられるようになります。
加入者のメリット
加入者(主に従業員など)から見たメリットは、次のような点が挙げられます。
1:加入後3年7ヶ月以上経過すると、運用利息のメリットを受けられる
加入して24ヶ月目以降になると、掛金総額の100%を受け取れるようになりますが、加入して3年7ヶ月以上を経過すると、運用利息などが加算され、掛金納付額より多くの額の退職金を支給されるようになります。
2:条件付きで転職した場合も退職金を通算できる
中小企業退職金共済(中退共)に加入している会社から同制度に加入している会社へ転職した場合、一定の要件を満たしていれば積み立てた退職金を通算できます。
3:福利厚生サービスを享受できる
中小企業退職金共済(中退共)の加入者(被共済者)として、中小企業退職金共済(中退共)と提携している宿泊施設やレジャー施設の割引など福利厚生サービスを受けられます。
デメリット
企業や事業主、加入者(主に従業員など)から見たデメリットは、次のような点が挙げられます。
1:経営者や役員は加入できない
経営者や役員は加入することができません。従業員のみが加入対象(被共済者対象)となります。
2:短期間で退職した場合、退職金が全く支給されないことがある
掛金を納付し始めて12カ月未満で退職すると、残念ながら退職金は支給されず、掛金分だけ損をすることになります。
1年(12カ月)以上2年(24カ月)未満で退職した場合は、退職金としての支給額は掛金納付総額を下回る額になります。
2年(24カ月)以上3年6ヵ月の場合、掛金総額の100%を受け取れるようになり、3年7ヵ月以上からは運用利息などが加算され、掛金納付額を上回るようになります。
3:掛金の減額が困難
掛金を減額しようとする場合、従業員の同意が必要になります。
もし従業員の同意が得られない場合、厚生労働大臣によって認められた認定書が必要になり、現在の掛金月額の継続が著しく困難であると認められる必要があります。
さらに、懲戒解雇して退職金の給付を減額するための手続きについても困難で、退職金が減額された場合でも、減額分は中小企業退職金共済(中退共)に没収扱いになり、企業や事業主には返ってこないことになります。
参考リンク
中小企業退職金共済事業本部公式サイト
小規模企業共済
税制メリットもあり、多くの小規模企業の経営者が利用
ただし、加入20年未満の場合などに注意
小規模企業共済は、「小規模企業経営者の退職金制度」とも言われるように、小規模企業の経営者や役員、個人事業主が廃業や退職に備える共済制度です。
経営者や役員、個人事業主が、会社としてではなく個人として加入するものですが、掛金を積み立てていくことで、廃業や退職時にこれまでの掛金に応じた共済金を受け取れるようになります。
例えば、廃業など法人を解散した場合には「共済金A」、病気や怪我の理由や、65歳以上で役員を退任した場合には「共済金B」、これら以外の理由で退任した場合は「準共済金」の受け取りが可能になります。
運営は、独立行政法人「中小企業基盤整備機構」(中小機構)が行っています。
導入企業のメリット
経営者や役員、個人事業主が、個人として加入し積み立てていく制度のため、導入企業としてのメリットはありません。
加入者のメリット
加入者(加入対象である経営者)にとってのメリットは、次のような点が挙げられます。
1:積み立てた掛金が非課税になる
積み立てた掛金は全額所得控除の対象になり、掛金の分には所得税が課税されません(最大84万円)。
また、掛金は月額1,000~7万円の範囲で、500円単位で設定することができます。ただし、減額する場合には注意が必要で後述のデメリット項目を参照ください。
2:共済金の受け取り時(解約時)に税制優遇が適用される
小規模企業共済は共済金を受け取る際(解約する際)も節税が可能になります。
例えば、冒頭に紹介した、「共済金A」の場合(法人を解散した場合)や、「共済金B」の場合(病気や怪我で役員を退任した場合や65歳以上で役員を退任した場合)で共済金を受け取る場合、「退職所得」または「公的年金等の雑所得」扱いとなり、税負担を軽減できます。
3:低金利・無担保・無保証で「貸付制度」を利用できる
契約者は、「一般貸付制度」や「緊急経営安定貸付け」、「傷病災害時貸付け」など、各種貸付制度を活用することができます。
いずれも無担保・保証人不要で、利率は年0.9%~1.5%。借入期間は借入金額に応じて最大60ヵ月となっております(延滞すると年率14.6%の利子が発生しますのでご注意ください)。
デメリット
加入者(加入対象である経営者)から見たデメリットは、次のような点が挙げられます。
1:加入期間が約20年未満で解約すると、掛金の全額が返ってこない
掛金の支払いを開始して、240カ月(約20年)未満で任意解約をした場合、掛金の全額を取り返すことができず、元本割れしてしまいます。240ヶ月目(約20年後)を経過して初めて掛金の100%に達します。
また、加入期間が240カ月以上の場合でも、途中で掛金を増額または減額した場合で掛金区分ごとの掛金納付月数が240か月を下回ったときは、任意解約した場合に受け取れる解約手当金が掛金合計額を下回ってしまうことがあり、注意が必要です。
詳しくは、独立行政法人 中小企業基盤整備機構「共済金(解約手当金)について」を参照ください。
2:掛金を減額すると減額分についてはその後運用されなかったことになってしまう
掛金の減額は所定の手続を済ませれば可能ですが、減額した差額分については、その後全く運用されないまま放置されることになります。
仮に、その分を解約して「解約手当金」を受け取ろうとしても、加入後約20年経たなければ掛金総額より目減りしてしまうため、どちらも損をしてしまうことになります。
そのため、後に減額してしまうことにならないよう、加入開始のときから無理のない掛金を設定する必要があります。
参考リンク
独立行政法人 中小企業基盤整備機構公式サイト
特定退職金共済制度
地域の商工会議所などが主体となって運営している退職金制度
中小企業退職金共済のような従業員数の制限もありません
概要
特定退職金共済制度とは、商工会議所や商工会、商工会連合会、一般社団法人、一般財団法人など、所得税法施行令第73条に定める「特定退職金共済団体」が主体となって実施している制度で、「従業員の退職金」ための社外積立型共済制度です。
先に紹介した、「中小企業退職金共済」は国が運営する制度に対して、「特定退職金共済」はこのような地域の商工会等が国の承認のもとに特定退職金共済団体を設立して行っている制度で、加入できる企業や法人は商工会議所のエリア内に事業所を持つ事業主となります。また、中小企業退職金共済のような従業員数などの制限はとくにありません。
中小企業の事業主や法人が退職金共済契約を締結し、事業主や法人は毎月特定退職金共済団体に掛け金を支払い、従業員の退職金を社外に積み立てていきます。従業員の退職金は直接、特定退職金共済団体から支給されます。
なお、似たような名称の制度として、「特定業種退職金共済制度(特退共)」という制度があり、「建設業退職金共済制度(建退共)」「清酒製造業退職金共済制度(清退共)」「林業退職金共済制度(林退共)」の3種類があります。
導入企業・事業主のメリット
導入を検討する企業や事業主から見たメリットは、次のような点が挙げられます。
1:掛金を全額損金扱いにすることができる
中小企業退職金共済同様、従業員の掛金を全額損金扱いにできます。
2:比較的導入しやすく、管理上の負担も軽い
特定退職金共済(特退共)は、保険会社経由で管轄内の商工会議所や商工会などに加入申込書を提出するだけで退職金制度を導入できます。
掛金の積立や運用についても外部の保険会社が代行するため、管理や運用上の負担も抑えられます。
加入者のメリット
加入者(主に従業員など)から見たメリットは、次のような点が挙げられます。
1:長く加入すると運用利息のメリットを受けられる
特定退職金共済(特退共)は長く加入すると、掛金以上の退職金を受け取れるようになります。
例えば、東京商工会議所の場合、加入8年後になると退職金が掛金を上回ります(2021年9月現在の東京商工会議所資料より)。
2:過去の勤務期間を通算できる
特定退職金共済(特退共)は新規に加入する場合、加入前の従業員の勤務期間分についても、加入前の勤務期間を過去10年分まで通算して掛金を支払うことができます。
過去分の掛金を支払うことによって、勤務期間に応じた退職一時金を受け取れるようになります。
デメリット
企業や事業主、加入者(主に従業員など)から見たデメリットは、次のような点が挙げられます。
1:経営者や役員は加入できない
中小企業退職金共済(中退共)同様、経営者や役員は加入できません。従業員のみ加入することができます(被共済者対象)。
2:加入期間によって元本割れが発生する
特定退職金共済(特退共)に加入後、例えば早期に退職すると、加入年数によって退職金が掛金総額を下回ってしまうことがあります。
例えば、先ほども紹介した東京商工会議所のケースでは、加入してから7年以内に退職すると掛金の方が高くなり元本割れとなってしまいます(2021年9月現在の東京商工会議所資料より)。
3:掛金の減額が困難で煩わしい
中小企業退職金共済(中退共)同様、掛金の減額手続きが煩わしく、掛金を減額する場合、全従業員からの同意が必要になります。
また、掛金の積み立てが著しく困難であることを、中小企業退職金共済(中退共)の事業主体(特定退職金共済団体)に認めてもらわなければなりません。
「保険」を活用した退職金準備
経営者や法人向けの保険商品(法人保険)についても退職金準備の選択肢のひとつになります。
ここでは、「逓増定期保険」、「長期平準定期保険」、「養老保険(福利厚生プラン)」の3つをご紹介いたします。
「逓増定期保険」と「長期平準定期保険」
どちらも経営者や法人向けの定期型生命保険商品
退職金や万一への備えとして活用することができます
概要
「逓増定期保険」と「長期平準定期保険」は、どちらも主に経営者や法人向けに設計された生命保険で、経営者自身に万が一のことが起きた場合や、会社が危機に陥った場合の資金確保に備えることができる法人向けの定期保険です。
両者とも経営者や役員の退職金として活用することが可能ですが、両者の違いは主に次の通りになります。
「逓増定期保険」と「長期平準定期保険」の主な違い
保険期間について
逓増定期保険は、5年から10年で解約返戻金がピークになりますが、長期平準定期保険は、20年から30年以上で解約戻り金がピークになります。
保険料と保険金について
逓増定期保険の保険料は年額1,000万円程度必要になり、保険金は5,000万円から最大でその5倍程度が見込まれます。
保険を契約してから期間満了までに保障の保険金額が当初から最大5倍まで逓増していく(段階的に増えていく)のが、逓増定期保険の主な特徴となっています。
長期平準定期保険の場合、年額にかかる費用は200万円程度の見込みで、保険金は2億円から3億円程度が見込まれます。
損金の計上について
どちらも、保険料の一部を損金として扱うことができますが、保険期間などによって変動します。
【保険期間が開始から6割までの期間】
逓増定期保険の場合、保険期間が終わる時点での被保険者の年齢によって変動しますが、1/2~1/4を損金として計上できます。
長期平準定期保険の場合、1/2を損金として計上可能です。
【保険期間が残りの期間】
逓増定期保険も長期平準定期保険もどちらも、全額損金として計上できます。
契約者貸付制度について
解約返戻金の一定の範囲内で保険会社からお金を貸し付けることができる制度を契約者貸付といいますが、どちらも利用できる場合があります。
ただし、残りの保険期間や一定金額以上の解約返戻金がある場合に限られる場合が多いようですので、ご注意ください。
「逓増定期保険」と「長期平準定期保険」についての総評
逓増定期保険は、例えば経営者が比較的老齢で、解約戻り金のピークが今後5年~10年以内に訪れるとメリットであると思われる企業や経営者向けといえるかもしれません。
長期平準定期保険は、逓増定期保険よりも長期を見据えた企業や経営者向けといえそうです。
養老保険(福利厚生プラン)
従業員向けの退職金準備として人気の商品
保険料の1/2を損金扱いにすることができます
概要
「養老保険」の「福利厚生プラン」という商品は、経営者向けではありませんが、従業員の退職金準備としてよく利用されている保険商品です。
養老保険は、保険の対象者(被保険者)が契約期間中に亡くなってしまった場合は「死亡保険金」が支給され、契約期間が満了した場合は「満期保険金」が支給されます。
また、「養老保険(福利厚生プラン)」では、死亡保険金の受取人を従業員(被保険者)の遺族に設定し、満期保険金の受取人を会社や法人に設定します。
導入企業や従業員のメリット
導入を検討する企業や従業員(被保険者)から見たメリットは、次のような点が挙げられます。
1:保険料の1/2を損金に算入できる
養老保険(福利厚生プラン)は、保険料の1/2を損金扱いが可能です。
2:退職金支払時の赤字のリスクを小さくできる
「満期保険金」や「解約返戻金」を退職金に充てることによって、退職金を支払う際の赤字のリスクを小さくできます。
3:死亡保険金を受け取れる
仮に在職中に従業員が死亡してしまったとしても、遺族は一定額の「死亡保険金」を受け取れます。
導入企業や従業員のデメリット
導入を検討する企業や従業員(被保険者)から見たデメリットは、次のような点が挙げられます。
1:保険料が比較的割高になる
養老保険は、「死亡保険金」又は「満期保険金」のどちらかが必ず支払われるため、保険料は比較的割高になります。
2:従業員が満期前に退職してしまうと、保険料は一部しか戻ってこない
従業員(被保険者)が満期前に退職してしまった場合、「解約返戻金」を退職金に充てることになります。
この解約返戻金の返戻率の影響によって、従業員(被保険者)が満期になる前に退職してしまうと、それまで支払った保険料のうち一部しか取り戻せないということになります。
まとめ
全般的に、
- 経営者や役員、事業主も加入できる退職金制度や退職金準備の方法
- 企業、とくに中小企業も導入できる退職金制度や退職金準備の方法
という視点でまとめてみましたが、こちら記事を参考に従業員や会社、役員を含めた経営者層も等しく恩恵を受けられる制度や仕組みを検討いただければと思います。
※こちらの記事は2021年10月1日時点の情報を参照の上、執筆しております。
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