「退職金共済」と「退職金制度」この二つにはどのような違いがあるのでしょうか。また、 具体的にどのような制度があり、どちらがお得だったりするのでしょうか。
そこで本記事では、その二つの違いを切り口に、「企業年金」についても紹介しながら、それぞれの特徴や具体的な制度、メリット・デメリットについても解説します。
目次
「退職金共済」と「退職金制度」の違い
結論からいえば、「退職金共済」は退職金制度(退職金積立制度)のひとつであり、共済型の退職金制度であるともいえます。
退職金共済(共済型の退職金制度)で比較的よく知られているのは「中小企業退職金共済(中退共)」や「小規模企業共済」ですが、これら以外にもいくつかの制度があります。
また、退職金制度には共済型の退職金制度以外に「企業年金型」の退職金制度があるほか、保険などを活用して退職金を準備する方法もあります。
分かりやすくまとめると、下表のようになります。
種別 | 具体的な退職金制度 | |
---|---|---|
共済型 |
など |
|
企業年金型 |
※iDeCo/イデコは個人型の確定拠出年金に分類されるため、企業年金ではありません。 |
|
自社準備型 |
|
【用語解説】「退職金制度」「退職金共済」「企業年金」
参考までに、「退職金制度」「退職金共済」「企業年金」について、簡単に解説します。
「退職金制度」とは?
退職金制度とは、従業員の退職時に、従業員の働きなどに応じた金額を支給する制度です。
具体的には、上表のように「退職金共済型」「企業年金型」「自社準備型」の3つに大きく分類されます。
「退職金共済」及び「共済」とは?
共済とは、複数人がお金を出し合うことで、お互いに保障や支援を行う仕組みのことをいいますが、特に退職時の資金づくりのための共済制度を「退職金共済」と呼びます。
具体的には、上表のように、「中小企業退職金共済(中退共)」や「小規模企業共済」などの制度があります。
「企業年金」とは?
企業年金とは、企業が従業員の退職後の生活のために設ける年金制度のことをいいます。
企業年金の支給方法は、従業員の退職時にまとめて支給する「退職一時金」と、退職後数年かけて年金のように支給する「退職年金」がありますが、一般的に、「法律に基づいて実施される退職年金」について「企業年金」と呼ばれます。
(法律に基づかない、自社独自のルールに基づいて実施される退職年金を「自社年金」と呼ぶこともあります。)
具体的には、「確定給付企業年金(DB)」と「確定拠出年金(DC)」の大きく2種類の制度に分類されます(上表参照)。
※法律に基づいて実施される退職年金には、上記以外に「厚生年金基金」がありますが、事実上廃止され新設できません。
※「iDeCo/イデコ(個人型確定拠出年金)」は個人型の確定拠出年金に該当するため、「企業年金」には含まれません。
退職金共済(共済型の退職金制度)の具体的な制度や特徴
次に、退職金共済(共済型の退職金制度)の具体的な制度や特徴について簡単に紹介します。まずは、下表をざっとご確認ください。
なお、退職金共済は、基本的に小規模企業共済を除いて従業員のみが加入対象となり、従業員のための退職金制度になります。
制度名(一例) | 加入対象 | 共済契約対象 |
---|---|---|
中小企業退職金共済(中退共) | 従業員 | 一般の中小企業 (但し、従業員数や資本金による) |
小規模企業共済 | 役員層のみ | 従業員数が5人以下または20人以下の小規模企業 |
社会福祉施設職員等退職手当共済 | 従業員 | 社会福祉法人 |
特定退職金共済 | 従業員 | 商工会や一般社団法人 |
特定業種退職金共済 | 従業員 | 建設業、酒造業、林業 |
中小企業退職金共済(中退共)
「中小企業退職金共済(中退共)」とは、その名前のとおり、中小企業向けの共済型退職金制度です。
掛金は事業主が全額負担しますが、損金計上できるほか、掛金の一部について国から助成も得られます。
ただし、原則として従業員全員の加入が必須であり、経営者や役員は加入できません。
一度決めた掛金の減額が極めて難しいことや、死亡退職金の準備には不向きといったデメリットもあります。
詳細は下記の関連記事を参照ください。
小規模企業共済
「小規模企業共済」とは、中小企業退職金共済(中退共)よりもさらに小規模企業向けに用意された共済型の退職金制度です。
自営業者や個人事業主(フリーランス)の方が、自身や役員のために退職金を積み立てることができます。
加入対象者は会社ではなく個人となり、掛金は所得控除可能です。
詳細は下記の関連記事を参照ください。
社会福祉施設職員等退職手当共済(WAM)
「社会福祉施設職員等退職手当共済(WAM)」とは、社会福祉法人が導入できる共済型の退職金制度です。
社会福祉にかかわる従業員の確保や安心して働ける環境づくりを目的に創設され、「独立行政法人福祉医療機構(WAM)」が運営を行っています。
詳細は下記の関連記事を参照ください。
特定退職金共済
「特定退職金共済制度」とは、商工会や一般社団法人などが所轄税務署長の承認を受けたうえで運営する共済型の退職金制度です。
原則として従業員全員が加入必須であり、経営者や役員は加入できません。また、掛金は事業主が負担しますが、全額損金算入できます。
一度決めた掛金の減額が難しい点を含めて、中小企業退職金共済(中退共)とほぼ同じ仕組みですが、特定退職金共済制度は導入要件に事業規模が含まれません。幅広い企業が利用できる制度です。
特定業種退職金共済
「特定退職金共済」と似た名前の制度として「特定業種退職金共済制度(特退共)」があります。
特定業種退職金共済制度は、建設業や清酒製造業、林業に従事する従業員のための退職金制度で、具体的には「建設業退職金共済制度(建退共)」「清酒製造業退職金共済制度(清退共)」「林業退職金共済制度(林退共)」の3種類の制度があります。
建設業退職金共済(建退共)についてはこちらの記事も参照ください。
退職金共済と企業年金の退職金制度では「どっちが得」か?
退職金共済(共済型の退職金制度)と企業年金による退職金制度を比べた場合、どちらがお得なのでしょうか。
各項目ごとにまとめた比較表を参照ください。
項目 | 退職金共済 ※ (小規模企業共済を除く) |
企業年金 | |
---|---|---|---|
確定給付企業年金 | 企業型確定拠出年金 | ||
加入対象 | 従業員のみ | 経営者も可能 (厚生年金被保険者) |
経営者も可能 (厚生年金被保険者) |
給付額 | 運用成績により変動しない | 運用成績により変動しない | 運用成績により変動する |
給付の種類 | 一時金又は分割払い | 一時金又は年金 | 一時金又は年金 |
受取時期 | 中途退職後に受取り可能/一定の条件満たす場合、分割払いでの受取りも可能 ※但し制度により異なる |
制度によるが、中途退職後に受取り可能/ 老後に年金としても受取り可能(但し条件有り) |
原則60歳以上に制限 |
掛金の範囲 | 制度により異なる ※中退共の場合、5,000円~30,000円/月の範囲で16段階 |
制度により異なる | 1,000円~55,000円/月 ※iDeCoと併用の場合、上限額が変わります |
税制優遇 | 有り | 有り | 有り |
法定福利費の軽減 | 不可 | 制度設計により可能 | 制度設計により可能 |
(※)ここでは、中小企業退職金共済、社会福祉施設職員等退職手当共済、特定退職金共済、特定業種退職金共済を退職金共済の対象にします(小規模企業共済は含まれません)。
上表をまとめると以下のようになりますが、一部、企業年金には退職金共済にはないメリットや違いがあるといえるかもしれません。
なお、「企業年金」(確定給付企業年金や企業型確定拠出年金)については、次項で紹介します。
- 経営者も加入できる制度が希望なら、企業年金(確定給付企業年金/企業型確定拠出年金)
- 給付額が安定している制度が希望なら、退職金共済か確定給付企業年金
- 受け取り時期の選択肢が多いのは、退職金共済か確定給付企業年金
- 法定福利費の軽減も見込めそうなのは、企業年金(確定給付企業年金/企業型確定拠出年金)
コラム
「はぐくみ企業年金」の場合、掛金は月額1,000円~給与や役員報酬の20%まで拠出可能
また、制度設計によって副次的に法定福利費の軽減も期待できます
「はぐくみ企業年金」(正式名称:福祉はぐくみ企業年金基金)は確定給付企業年金型の企業年金・退職金制度になりますが、掛金は月額1,000円から給与又は役員報酬の20%まで拠出できます。
また、掛金や給付金の税制優遇以外に、「選択制確定給付企業年金」という制度設計によって副次的に法定福利費の軽減も期待できるほか、会社掛金の負担を少なく始められるなど、おすすめの制度です。
退職金共済以外の選択肢:企業年金による退職金制度の概要や特徴
参考までに、企業年金による退職金制度である、「確定給付企業年金(DB)」「企業型確定拠出年金(企業型DC)」さらに「iDeCo+(イデコプラス)」について、概要や特徴を解説します。
確定給付企業年金(DB)
「確定給付企業年金(DB)」とは、企業年金に分類される退職金制度のひとつです。
あらかじめ企業と従業員が、給付内容や将来の給付額を約束するという意味から「確定給付」と呼ばれています。
また、厚生労働省の資料によると、2021年度末時点で約930万人の加入者がおり、日本国内において最も加入者数が多い任意退職金の制度です。
おすすめ確定給付企業年金
「はぐくみ企業年金」は現在、導入企業や加入者が急増している注目の企業年金・退職金制度です。一部を除いて「業界業種を問わず、中小企業から大企業まで導入できる」ほか、高齢期の資産形成が基本になる制度とはいえ「退職時などにも受給可能」、選択制などの制度設計により「掛金拠出の負担を抑制できる」、厚生年金被保険者であれば「従業員はもちろん、経営層も加入できる」など、従業員、経営者、会社それぞれにメリットが生れるとてもおすすめの制度です。
企業型確定拠出年金(企業型DC)
「企業型確定拠出年金(企業型DC)」もまた、企業年金に分類される退職金制度のひとつです。
会社が掛金を拠出しますが、従業員(加入者)自身が資産運用を行うのが特徴で、運用成績によって資産や給付額が変動します。
なお、企業型確定拠出年金(企業型DC)を含めて「確定拠出年金(DC)」は、掛金の拠出額が決められているという意味から、「確定拠出」と呼ばれています。
詳しくは、こちらの記事も参照ください。
iDeCo+(イデコプラス)
「iDeCo+(イデコプラス)」とは、個人型確定拠出年金に分類される「iDeCo(イデコ)」に加入している従業員を対象に、従業員が拠出している掛金(加入者掛金)に、会社としての掛金(事業主掛金)を上乗せできる制度です。
従業員のうち、iDeCo(イデコ)の加入者のみが対象となる制度であるため、iDeCo(イデコ)に加入していない従業員は加入できません。
また、従業員数が300人以下といった制限もあります。
詳しくは、こちらの記事も参照ください。
おすすめ退職金制度の紹介
おすすめの退職金制度と、さまざまな退職金制度について紹介しているおすすめ記事を紹介します。
中小企業も導入できる退職金制度
中小企業も導入できる退職金制度として、「はぐくみ企業年金」「企業型確定拠出年金」「中小企業退職金共済」の3つを紹介します。
まずは、下表をご覧ください。
主要退職金制度の比較
はぐくみ企業年金 | 企業型確定拠出年金 | 中小企業退職金共済 | |
---|---|---|---|
根拠法 | 確定給付企業年金法 | 確定拠出年金法 | 中小企業退職金共済法 |
任意加入 | 可能 | 可能 | 全員加入 |
加入年齢 | 70歳未満 | 70歳未満 | 制限なし |
加入制限 | 役員も拠出可 | 役員も拠出可 | 役員は拠出不可 |
税制優遇 | 有り | 有り | 有り |
社会保険料 | 軽減可 (※1) | 軽減可 (※2) | 軽減不可 |
掛金拠出 | 会社の実質的な負担を抑制 (※1) | 会社が負担 (※2)
(会社負担分は損金計上可) |
会社が負担 (会社負担分は損金計上可) |
拠出金 上限/月 | 1,000円~給与の20% (上限40万円) | 1,000円~55,000円 ※iDeCoと併用の場合、上限額が変わります | 5,000円~30,000円の16段階 (※3) |
運用 |
基金が資産を運用 |
加入者が資産を運用 | 機構(※4)が資産管理・運用 |
受給額 | 運用成績により変動しない | 運用成績により変動する |
運用成績により変動しない |
受取り | 一時金又は年金/ 退職時、休職時、 育児・介護休業時にも受取り可能 | 一時金又は年金/ 但し、原則60歳以上に制限 | 一時金又は分割払い/ 退職後に受取り可能 |
※2:「選択制」を採用した場合、軽減できることがあります。
※3:パートタイマーなど短時間労働者の場合、特例掛金月額として2,000円から可能になります。
※4:ここでは「独立行政法人 勤労者退職金共済機構」のことを「機構」といいます。
おすすめは「はぐくみ企業年金」
はぐくみ企業年金は、現在、導入企業や加入者が急増している注目の企業年金・退職金制度です。
選択制などの制度設計により、掛金拠出の会社負担を抑制できるなど、従業員、経営者、会社それぞれにメリットが生まれるとてもおすすめの制度です。
まとめ記事で11の選択肢を紹介
こちらのまとめ記事で、退職金制度の選択肢を11件まとめて紹介しています。
他の制度のメリットやデメリットを体系的に比較・検討することができます。
※こちらの記事は2024年2月時点の情報を参照の上、執筆しております。
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