とくに中小企業が退職金制度の導入を検討する候補のひとつに、「中小企業退職金共済(中退共)」があります。
中小企業退職金共済(中退共)は従業員が加入できる制度で、独立行政法人勤労者退職金共済機構 中小企業退職金共済事業本部が運営する、中小企業のための退職金共済制度です。
本記事では、中小企業退職金共済(中退共)の概要やメリット・デメリットについて、分かりやすく解説します。
※本記事は、2023年11月に更新しています。
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目次
中小企業退職金共済(中退共)の概要
中小企業退職金共済(中退共)とは、中小企業のために設けられた退職金制度で、厚生労働省管轄の「独立行政法人勤労者退職金共済機構 中小企業退職金共済事業本部(中退共)」が運営を行っています。
会社が毎月掛金を支払って従業員の退職金を積み立てていき、従業員が退職となった場合、退職金は中小企業退職金共済から直接支払われます。
なお、掛金の一部が助成されるなどのメリットもあります。
中小企業退職金共済(中退共)の加入や手続き
中小企業退職金共済(中退共)の加入や手続きについてのポイントは次の通りです。
中小企業退職金共済(中退共)に加入できる企業の条件
中小企業退職金共済(中退共)に加入できる企業(共済契約者)は、業種ごとに資本金・出資金の額か、従業員数のどちらかの基準を満たす必要があります。
とはいえ、ほとんど多くの中小企業が加入できそうな内容です。
業種 | 条件 |
---|---|
一般業種(製造業・建設業等) | 常用従業員数300人以下、または資本金・出資金3億円以下 |
卸売業 | 常用従業員数100人以下、または資本金・出資金1億円以下 |
サービス業 | 常用従業員数100人以下、または資本金・出資金5,000万円以下 |
小売業 | 常用従業員数50人以下、または資本金・出資金5,000万円以下 |
中小企業退職金共済(中退共)の加入対象者
加入できるのは従業員で、原則全員加入が必要になる
中小企業退職金共済(中退共)の加入対象者(被共済者)は従業員となり、原則として全員加入が必要になります。
ただし、以下に該当する従業員は加入させる必要はありません。
なお、中小企業退職金共済に加入している従業員は、社会福祉施設職員等退職手当共済には加入できません。
- 期間を定めて雇用される従業員
- 季節的業務の雇用される従業員
- 試用期間中の従業員
- 短時間労働者
- 休職期間中の者およびこれに準ずる従業員
- 定年などで相当の期間内に雇用関係の終了することが明らかな従業員
経営者や役員は加入できない
被共済者として、中小企業退職金共済(中退共)に加入できるのは従業員のみになります。
経営者は加入できませんので、ご注意ください。
その他加入できない方について
以下に該当する場合も、中小企業退職金共済(中退共)に加入できません。
- 中退共制度に加入している方
- 特定業種退職金共済制度に加入している方 ※1
- 被共済者になることに反対の意思を表明した従業員
- 小規模企業共済制度に加入している方
※1 建設業や清酒製造業、林業が対象となる、「特定業種退職金共済制度」には企業としてどちらの制度にも加入できますが、同一の従業員がどちらの制度にも加入することはできません。
加入までの手続き
加入までの手続きやフローは次のようになります。
- 加入させようとする従業員の同意を取ります。
- 従業員個々の掛金月額を決定します。
- 書類に必要事項を記入し、提出します
3の必要書類は、金融機関(ゆうちょ銀行、農協、漁協、ネット銀行、外資系銀行を除く)または委託事業主団体(商工会議所やTKC企業共済会)の窓口にあります。提出先も同じく各窓口になります。
中小企業退職金共済(中退共)の掛金について
中小企業退職金共済(中退共)の掛金について、ポイントは次の通りになります。
掛金は月5,000円~30,000円の範囲で16通りから選ぶ
月々の掛金は5,000円~30,000円の範囲で16通りの選択肢があり、事業主はその中から、従業員ごとに金額を任意に選択することができます。
また、週30時間未満の短時間労働者(パートタイマー等)の場合は2,000円、3,000円、4,000円の中から選択することも可能です。
掛金は全額事業主が負担する
掛金は全額事業主が負担することになりますが、損金扱いにできます。従業員の税負担もありません。
なお、どのような理由があっても従業員に負担させることはできません。
掛金の変更は可能か?
掛金の増額については、加入後、「月額変更申込書」を事前に提出することでいつでも変更することができます。
ただし、減額については下記の条件をクリアする必要があります。
- 掛金月額の減額をその従業員が同意した場合
- 現在の掛金月額を継続することが著しく困難であると厚生労働大臣が認めた場合
なお、18,000円以下の掛金月額を増額する事業主には、増額分の3分の1(10円未満の端数は、切り捨て)を増額月から1年間、国から助成金が出ますが、掛金月額の増額による助成期間内(12か月)に掛金月額を減額した場合、「月額変更助成」は打ち切りとなります。
退職金のシミュレーション
中小企業退職金共済(中退共)の公式サイトにて、退職金のシミュレーションが可能です。
なお、受け取れる退職金は、「基本退職金」と「付加退職金」を合算したものになりますが、こちらでは基本退職金についてのシミュレーションが行えます。
シミュレーションはこちら。
企業や事業主にとってのメリット
企業や事業主にとってのメリットは次のようになります。
メリット①:掛金について全額損金扱いにできる
企業や事業主が従業員の掛金を負担しますが、この掛金分について全額損金扱いにできます。
メリット②:掛金の一部を国が助成してくれる
新規で中小企業退職金共済(中退共)に加入すると、加入後4ヵ月目から1年間、掛金の半分(従業員ごとに上限5,000円まで)が国によって助成されます。
また、従業員の掛金を増額する場合、従業員の掛金月額が18,000円以下であれば、掛金を増額する事業主に対して、増額分の3分の1を1年間、国から助成されるようになります。
メリット③:福利厚生の各種サービスを従業員に提供できる
主な対象の従業員などが中小企業退職金共済(中退共)の加入者(被共済者)になると、中小企業退職金共済(中退共)と提携しているレジャー施設や宿泊施設の割引きなど、福利厚生面でのサービスを利用できるようになります。
メリット④:退職金など給付金は従業員に直接支払われる
「退職金」や「解約手当金」は、従業員自身が中小企業退職金共済(中退共)の本部に請求し、従業員本人に直接支払われます。
加入者(主に従業員など)にとってのメリット
主に従業員になりますが、加入者にとってのメリットは次のようになります。
メリット①:運用利息が発生する(加入後3年7ヶ月以上経過の場合)
加入後24ヶ月目以降になると、掛金総額の100%を受け取れるようになります。
さらに、加入後3年7ヶ月以上経過すると、運用利息などが加算され、掛金納付額以上の退職金を受け取れるようになります。
メリット②:転職した場合、一定条件で退職金を通算できる
中小企業退職金共済(中退共)に加入している会社から同じ制度に加入している会社へ転職した場合、積み立てた退職金を通算することが可能です。
ただし、一定の要件を満たしている場合になります。
メリット③:福利厚生サービスを享受できる
従業員など、中小企業退職金共済(中退共)の加入者(被共済者)は、同共済と提携しているレジャー施設や宿泊施設の割引きなど、福利厚生サービスを利用できるようになります。
中小企業退職金共済(中退共)のデメリット
企業や事業主から見たデメリットや加入者から見たデメリットは、次の通りです。
デメリット①:加入者は従業員に限定される
従業員のみが加入対象(被共済者対象)となるため、経営者や役員層の方は同制度に加入することができません。
デメリット②:短期間で退職してしまうと、退職金が全く支給されない場合がある
加入後、掛金の支払いを開始して12カ月未満で退職してしまうと、退職金は全額支給されません。掛金分そのまま損をしてしまうことになります。
また、12カ月以上24カ月未満で退職した場合、退職金の支給額は掛金納付の総額を下回ってしまいます。
24カ月以上3年6ヵ月の場合になると、掛金総額の100%を受け取れるようになります。
3年7ヵ月以上になると、運用利息分が加算され、掛金納付額を上回るようになります。
デメリット③:掛金の減額が簡単に行えない
掛金の減額を行いたい場合、従業員の同意が必要になります。仮に従業員の同意が得られない場合、厚生労働大臣の認定書が必要になります(現在の掛金月額の継続が著しく困難であるという認定手続きが必要になります)。
さらに、懲戒解雇して退職金の給付を減額する手続きも困難で、退職金が減額されたとしても、その減額分は中小企業退職金共済(中退共)によって没収されることになります。
デメリット④:運用利率が変動する可能性がある
毎年、運用利率が見直されますが、2019年~2020年度についての「厚生労働大臣が定める率」は、0と定められました。
「確定拠出年金」や「はぐくみ企業年金」との違い
確定拠出年金(企業型確定拠出年金やiDeCo)と、近年、導入企業や加入者が急増している「はぐくみ企業年金」(確定給付企業年金型の退職金制度)と比べた場合、ざっと下表のようになります。
中小企業退職金共済 | 確定拠出年金 (企業型DCやiDeCo) | はぐくみ企業年金 | |
---|---|---|---|
根拠法 | 中小企業退職金共済法 | 確定拠出年金法 | 確定給付企業年金法 |
任意加入 | 全員加入 | 可能 | 可能 |
加入年齢 | 制限なし | 70歳未満 | 70歳未満 |
加入制限 | 役員は拠出不可 | 役員も拠出可 | 役員も拠出可 |
税制優遇 | 有り | 有り | 有り |
社会保険料 | 軽減不可 | 企業型DCの場合、軽減可 (※1) | 軽減可 (※2) |
掛金拠出 | 会社が負担 (会社負担分は損金計上可) | 企業型DCの場合、会社が負担 (※1) (会社負担分は損金計上可) | 会社の実質的な負担抑制 (※2) |
拠出金 上限/月 | 5,000円~30,000円の16段階 (※3) | 1,000円~55,000円 ※併用の場合、上限額が変わります | 1,000円~給与の20% (上限40万円) |
運用 | 機構(※4)が資産を運用 | 加入者が資産管理・運用 |
基金が資産を運用 |
受取り | 一時金又は分割払い/ 退職後に受取り可能 | 一時金又は年金/ 但し、原則60歳以上に制限 | 一時金又は年金/ 退職時、休職時、 育児・介護休業時にも受取り可能 |
※2:「選択制(既存の給与の一部を前払い退職金に変更し、従業員ひとり一人がその前払い退職金の受取り方を選択できる制度)」による効果です。はぐくみ企業年金は選択制の採用を前提としています。
※3:パートタイマーなど短時間労働者の場合、特例掛金月額として2,000円から可能になります。
※4:ここでは「独立行政法人 勤労者退職金共済機構」のことを「機構」といいます。
確定拠出年金やはぐくみ企業年金との違い
中小企業退職金共済(中退共)は、実質的に老後にならないと受け取りができない「確定拠出年金(企業型DCやiDeCo)」と異なり、退職時に給付を受け取ることができます。
ただし、中小企業退職金共済(中退共)は、従業員のみが加入対象であったり、従業員全員の加入が必須であるなど、いくつか注意点があります。
ほかにも、確定拠出年金や「はぐくみ企業年金」のような「企業年金制度」で得られるメリットとの比較・検討も大切かもしれません。
なお、企業型確定拠出年金(企業型DC)やはぐくみ企業年金については、下記記事も参照ください。
参考リンク
他の制度や選択肢は? おすすめ退職金制度のご案内
中小企業退職金共済(中退共)以外の選択候補となる、おすすめ退職金制度とさまざまな退職金制度について紹介しているおすすめ記事を紹介します。
おすすめは「はぐくみ企業年金」
はぐくみ企業年金は、現在、導入企業や加入者が急増している注目の企業年金・退職金制度です。
選択制などの制度設計により、会社負担を少なく始められるなど、従業員、経営者、会社それぞれにメリットが生れるとてもおすすめの制度です。
まとめ記事で11の選択肢を紹介
こちらのまとめ記事で、退職金制度の選択肢を11件まとめて紹介しています。
他の制度のメリットやデメリットを体系的に比較・検討することができます。
※こちらの記事は2021年10月1日時点の情報を参照の上、執筆しています。
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