従業員がiDeCo（イデコ／個人型確定拠出年金）に加入している場合、退職金制度の候補として「iDeCo＋（イデコプラス：中小事業主掛金納付制度）」という制度があります。
iDeCo＋（イデコプラス）とは、iDeCo（イデコ）に加入している従業員が拠出する「加入者掛金」に、企業からも「事業主掛金」を拠出して、加入者掛金に上乗せできる制度になります。
注意点として、iDeCo＋（イデコプラス）の導入は、「企業年金」（企業型確定拠出年金、確定給付企業年金など）を導入していない企業に限られます。
また、iDeCo（イデコ）に加入していない従業員もいる場合、従業員の間で不満が生じる可能性もなくはないでしょう。
本記事では、iDeCo＋（イデコプラス）のメリット・デメリットについて掘り下げて解説します。
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目次
iDeCo＋（イデコプラス）を導入するための条件
iDeCo＋（イデコプラス）を導入しようとする場合、いくつかの条件を満たす必要があります。
まずは、iDeCo＋（イデコプラス）の制度上の条件を理解し、自社が導入できるか、自社にとって相応しい制度かどうかを判断しましょう。
ここでは、「制度上の条件」と「現実的な条件」に分けて紹介します。
制度上の条件
まずは、自社がiDeCo＋（イデコプラス）を導入できる要件に該当するかどうかを確認します。
iDeCo＋（イデコプラス）の制度上の条件は、以下のとおりです。
- 全事業所の従業員（厚生年金の第一号被保険者※）が300人以下であること
- 企業年金（企業型確定拠出年金、確定給付企業年金、厚生年金基金）をいずれも導入していないこと
- 加入者掛金と事業主掛金の合計額を「月額5,000円～23,000円」の間で設定すること
- 加入者掛金と事業主掛金を合わせて、事業主払込とすること（加入者掛金は給与天引き）
- 労使合意や個々の従業員における事業主掛金の上乗せに対する同意があること
（※）公務員や教員でない、一般企業の厚生年金被保険者
それ以外の現実的な条件
続いて、iDeCo＋（イデコプラス）が自社の退職金制度に適しているかどうかを判断します。
iDeCo＋（イデコプラス）の導入において、現実的な判断基準の一例は次のとおりです。
- 従業員がiDeCoに加入していること （加入していない従業員は利用できず、事業主から加入の強制はできない ）
- 加入していない従業員の年齢が65歳未満であること（65歳になるとiDeCo新規加入ができないため、年齢が原因で利用できない者がでてくる可能性がある ）
- 投資成績によって将来の受取額が変わる「確定拠出年金」であること（特に投資未経験者などから、確定給付タイプの退職金制度よりも理解を得られにくい可能性がある）
- 「加入者掛金＋事業主掛金」の上限は月額2万3,000円で、iDeCoと変わらない （企業や従業員によっては物足りない可能性がある）
iDeCo+（イデコプラス）の概要
あらためて、iDeCo＋（イデコプラス）の概要を解説します。
iDeCo＋（イデコプラス）とは、従業員などが加入するiDeCo（イデコ）に、企業が掛け金を上乗せして拠出できる制度になります。そのため、事前にiDeCo（イデコ）への加入が必要になります。
なお、企業が運営管理機関（金融機関）と個別に契約を結ぶ必要はありません。
制度の概要
iDeCo＋（イデコプラス）の概要をまとめると、下表のようになります。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 事業主要件 |
|
| 拠出対象者 |
|
| 掛金設定 |
|
| 納付方法 |
|
| 労使合意 |
|
| 手続き | 【導入前】
|
| 税制上の取扱い | 【役員・従業員個人(所得税・住民税関係）】
毎月の源泉徴収税額が減少する（社会保険料とiDeCo加入者掛金の合計を控除した額から源泉徴収税額が算定されるため）
1年分の加入者掛金がすべて「小規模企業等掛金控除」になる（その年の所得税、翌年度の住民税の減額になる）
給与課税の対象にならない（個人の税金や社会保険料の増加が生じない）
iDeCoと同じ優遇税制を受けられる |
iDeCo（イデコ）や企業型確定拠出年金（企業型DC）との違い
ここでは、類似的な制度である「iDeCo（イデコ）」と、企業年金制度として比較的よく知られている「企業型確定拠出年金（企業型DC）」との違いについて解説します。
iDeCo（イデコ）との違い
iDeCo＋（イデコプラス）とiDeCo（イデコ）の違いのひとつは、掛金についてです。
iDeCoでは、加入者自身が掛金を拠出しますが、iDeCo＋では、加入者と企業が掛金を負担し、企業が加入者分と企業分を合わせて拠出します。
拠出した掛け金は加入者の口座（iDeCoの口座）に入金され、資産運用については加入者（従業員）自身が行います。
また、iDeCo（イデコ）と同じく、掛け金が全額所得控除になったり、運用益が非課税になるなど、税制上の優遇措置があります。
企業型確定拠出年金（企業型DC）との違い
「企業型確定拠出年金（企業型DC）」は、企業年金のひとつで、会社が掛金を拠出して、従業員など加入者が運用商品を選んで年金資産を運用していく制度です。
「加入者自身が運用商品を選んで資産を運用していく」といった点など、iDeCo＋（イデコプラス）と類似点が多くありますが、ここでは違いについて2点紹介します。
掛金の上限額
iDeCo＋（イデコプラス）は、個人と企業の掛金拠出額の合計は毎月5,000円～23,000円までになります。
そのうえで、iDeCo＋（イデコプラス）はiDeCo（イデコ）に掛金を上乗せできる制度ですが、iDeCo（イデコ）の最低掛金は5,000円になるため、実質的に上乗せできる金額は18,000円が上限になります。
企業型確定拠出年金（企業型DC）の場合、毎月55,000円まで拠出でき、厚生年金被保険者であれば従業員だけでなく役員層も加入できます。
加入者の制限
iDeCo＋（イデコプラス）は、iDeCo（イデコ）の加入者しか制度の対象になりませんが、企業型確定拠出年金（企業型DC）であれば、すべての従業員を加入対象にできます。
また、「選択制企業型確定拠出年金」という制度を導入すれば、制度に加入するかどうかについて従業員自身が選択できるようにもなります。
iDeCo+（イデコプラス）のメリット
iDeCo＋（イデコプラス）を導入した場合のメリットを、企業の場合と加入者の場合（主に従業員）に分けると以下のようになります。
企業や事業主にとってのメリット
企業や事業主にとって、iDeCo＋（イデコプラス）を導入するメリットは次のとおりです（一例）。
特に従業員の多くがすでにiDeCo（イデコ）に加入していれば、比較的導入しやすいでしょう。
- 福利厚生の拡充によって、優秀な人材の採用や定着率アップに繋がる
- 少額な企業負担から始められる（1人あたり月1,000円～。加入者分と合わせて1人あたり月5,000円～）
- 運用手数料は加入者（従業員）が負担するため、企業は支払わなくてよい
- 運用先の金融商品を選ぶのは従業員であるため、運用成績が悪くても責任を感じずに済む
- 企業分が拠出した掛け金の全額を損金に算入できる
加入者（主に従業員など）にとってのメリット
従業員など加入者にとって、iDeCo＋（イデコプラス）に加入するメリットは次のとおりです（一例）。
基本的には、iDeCo（イデコ）と同様のメリットを享受できます。
- 企業による掛け金の上乗せによって個人の負担が少なくなり、老後の資産形成がしやすくなる
- 従業員だけでなく、役員や経営者も加入できる
- iDeCoの税制メリットはそのまま受けられる（①掛け金の全額が所得控除、②運用益が非課税、③受け取り時の優遇税制）
- 自身で選んだ運用管理機関（金融機関）をそのまま利用できる
- 自身で金融商品を選択することができ、運用成績が良ければ退職金が増加する
- 企業による上乗せ分は所得の扱いにならず、所得税や社会保険料の増加はない
iDeCo+（イデコプラス）のデメリット
続いて、iDeCo＋（イデコプラス）を導入した場合のデメリットもみていきましょう。
ここでも企業と加入者（主に従業員）に分けて解説します。
企業や事業主にとってのデメリット
企業や事業主にとって、iDeCo＋（イデコプラス）を導入した場合のデメリットは次のとおりです（一例）。
- iDeCoに加入していないと利用できないため、従業員全員が満足する退職金制度にならない可能性がある
- iDeCoは運用商品によって元本割れなどのリスクもあり、企業側から加入を推奨しにくい面がある
- iDeCoの加入者が増えないと、結果として別の制度を検討する必要が出てくる
- iDeCo＋の導入には一定の手続きが必要になる（上記「制度の概要」参照」）
- 役職や勤続期間で事業主掛金を区別できるが「月額5,000円～23,000円」の範囲でしか検討できないため、差を設けるには限界がある
- 企業年金（企業型確定拠出年金、確定給付企業年金、厚生年金基金）と併用できない
特に、iDeCo（イデコ）に加入していないと利用できない点がネックになるでしょう。
また、「企業型確定拠出年金（企業型DC）」や「確定給付金業年金（DB）」との併用ができないのも注意点のひとつになります。
加入者（主に従業員など）にとってのデメリット
従業員など加入者にとって、iDeCo＋（イデコプラス）のデメリットは次のとおりです（一例）。
- iDeCoへの加入が前提となる
- iDeCoのデメリットはそのまま残る（60歳まで引き出せない、元本割れリスクがある、運用手数料の負担がある）
- 加入者自身で運用商品を選択するが、運用成績が悪ければ運用資産が減少する
- 「月額23,000円以下」は通常のiDeCoの制限と変わらないため、人によっては物足りなさを感じる可能性がある
iDeCo（イデコ）への加入が前提となるため、iDeCo（イデコ）に加入していない従業員にとっては不満や不公平感を感じてしまうかもしれません。
それ以外のデメリットについては、基本的にiDeCo（イデコ）と同様になります。
また、会社や事業主からみた場合、従業員にiDeCo（イデコ）への新規加入を促す必要が出てくる場合、安全性など心理的なハードルや手続き上のハードルを乗り越える必要がでてきそうです。
【iDeCo＋（イデコプラス）以外の選択肢】
「中退共」や「はぐくみ企業年金」との違い
参考までに、iDeCo＋（イデコプラス）以外の選択肢として「中小企業退職金共済（中退共）」と「はぐくみ企業年金」（確定給付型の企業年金制度）と比べた場合を紹介します。
大きな違いはざっと下表のようになります。
| iDeCo＋ | 中小企業退職金共済 | はぐくみ企業年金 | |
|---|---|---|---|
| 根拠法 | 確定拠出年金法 | 中小企業退職金共済法 | 確定給付企業年金法 |
| 任意加入 | 可能 | 全員加入 | 可能 |
| 加入年齢 | 70歳未満 | 制限なし | 70歳未満 |
| 加入制限 | 役員も拠出可 | 役員は拠出不可 | 役員も拠出可 |
| 税制優遇 | 有り | 有り | 有り |
| 社会保険料 | 軽減不可 （負担は増えない） | 軽減不可 （負担は増えない） | 軽減可 (※1) |
| 掛金拠出 | 一部会社側が負担 （会社負担分は損金計上可） | 会社が負担 （会社負担分は損金計上可） | 会社の実質的な負担抑制 (※1) |
| 拠出金 上限/月 | 個人と法人の拠出額の合計が5,000円～23,000円 （会社拠出は1,000円～23,000円） | 5,000円～30,000円の16段階 (※2) | 1,000円～給与の20% (上限40万円) |
| 運用 | 加入者が資産を運用 | 機構(※3)が資産管理・運用 |
基金が資産を運用 |
| 受取り | 一時金又は年金／ 但し、原則60歳以上に制限 | 一時金又は分割払い／ 退職後に受取り可能 | 一時金又は年金／ 退職時、休職時、 育児・介護休業時にも受取り可能 |
※2：パートタイマーなど短時間労働者の場合、特例掛金月額として2,000円から可能になります。
※3：ここでは「独立行政法人 勤労者退職金共済機構」のことを「機構」といいます。
中小企業退職金共済やはぐくみ企業年金との違い
「中小企業退職金共済（中退共）」は、共済型の退職金制度で、従業員のみが加入対象になります。また、従業員全員の加入が必須になります。
「はぐくみ企業年金」は、企業年金型の退職金制度（確定給付型の企業年金制度）になり、厚生年金被保険者であれば、従業員だけでなく経営者や役員層も加入できます。
さらに、企業型確定拠出年金（企業型DC）と異なり、老齢期以外に退職時などにも給付金を受け取れるのもポイントです。
参考リンク
おすすめは「はぐくみ企業年金」
はぐくみ企業年金は、現在、導入企業や加入者が急増している注目の企業年金・退職金制度です。
選択制などの制度設計により、会社負担を少なく始められるなど、従業員、経営者、会社それぞれにメリットが生れるとてもおすすめの制度です。
まとめ記事で11の選択肢を紹介
こちらのまとめ記事で、退職金制度の選択肢を11件まとめて紹介しています。
他の制度のメリットやデメリットを体系的に比較・検討することができます。
※こちらの記事は2023年1月17日時点の情報を参照の上、執筆しております。
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