会社の退職金制度として活用できる「確定給付企業年金(DB)」について、本記事では概要のほか、メリットとデメリットについて解説します。
確定給付企業年金の導入を検討しているのであれば、こちらを一読することで自社にとってメリットとデメリットのどちらが大きいかを判別できるでしょう。
なお、確定給付企業年金の仕組みの詳細を知りたい方は、こちらの記事( 基金型と規約型の違いについての記事)もご覧ください。
- 退職金制度の導入や乗り換えをご検討の方へ
- 中小企業を中心に、導入が増えている注目の企業年金・退職金制度「はぐくみ企業年金」。 福利厚生の充実だけでなくコスト削減効果も期待できるなど、従業員、経営者、会社それぞれにメリットが生まれるとても人気の制度です。>>詳しくはこちら
目次
確定給付企業年金(DB)の概要
2002年4月からスタートした確定給付企業年金(DB)は、厚生労働省所管の企業年金制度で、厚生労働省の資料によると、企業年金制度のなかで最も利用実績がある制度です(2022年時点で約911万人が加入)。
企業年金とありますが、確定給付企業年金の受け取り方は、年金方式だけではありません。
制度によっては、定年時だけでなく、中途退職時にも一時金として受け取りが可能です。
つまり、確定給付企業年金は、終身雇用ではなく転職が当たり前となった現代のワークスタイルに適した制度だといえるでしょう。
確定給付企業年金(DB)の基本的な仕組み
確定給付企業年金(DB)の基本的な仕組みを解説するにあたって、まずは下表でざっくりと概要をご確認ください。
項目 | 詳細 |
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実施形態 |
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加入対象者 |
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掛金 |
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受取方法 |
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税制面について |
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それぞれの項目について、詳しくは以下で解説します。
制度を導入できる企業や事業主の条件
既存の制度を導入する場合、企業や事業主に課される条件は制度によります(後述する「はぐくみ企業年金」の場合、厚生年金適用事業者であれば業態を問わず中小企業も導入可能です)。
また、確定給付企業年金を会社に導入するための方法は、「自社で制度の基盤づくりから始める」か、「既存の制度を導入する」かのどちらかに分かれます。
自社で一から制度を整える方法は、多くの費用および手間がかかるため、資産運用の基盤を持つ大企業向けの方法であるといえるかもしれません。
制度への加入対象者
確定給付企業年金の加入対象者は、原則「厚生年金保険の被保険者」であることです。従業員だけでなく、経営者や役員であっても、加入できます。
ただし、会社や制度によっては独自の対象制限を設けているケースもあります。
(※退職金として活用できる制度のなかには、経営者や役員の加入を不可としたものも少なくありません)
掛金について
確定給付企業年金の掛金は、原則、会社や事業主が全額を負担します。掛金の拠出は、最低でも年に1回以上、定期的に行わなくてはいけません。
拠出した掛金は、全額が損金計上の対象になります。
なお、「選択制(※)」の制度設計がされた確定給付企業年金の場合、従業員など加入者は制度に加入して掛金を積み立てるという選択肢以外に、制度に加入せずにその分を毎月の給与として受け取るといった選択肢も選べるようになります。
「はぐくみ企業年金」の場合、事業主の実質的な負担を抑えることが可能
「基金型」確定給付企業年金である「はぐくみ企業年金」(正式名用:福祉はぐくみ企業年金基金)の場合、「選択制(※)」などの制度設計によって会社の新規負担を少なく始めることができます(この仕組みを「選択制確定給付企業年金」といいます)。
ほかにも、従業員や経営者、会社それぞれにメリットが生まれるおすすめの制度です。
(※):選択制とは既存の給与の一部を前払い退職金に変更し、従業員ひとり一人がその前払い退職金の受取り方を選択できる制度です。
受取方法と種類
確定給付企業年金は、「脱退一時金」「老齢給付金」「障害給付金」「遺族給付金」のいずれかとして、受け取りが可能です。
ただし障害給付金と遺族給付金に関しては、制定が任意のため、会社や制度によって有無やルールが異なります。
一時金として受け取る(脱退一時金)
脱退一時金として給付を受けられるのは、中途退職時と定年退職時の両方です。
受給要件は法律上の制限が設けられていないため、会社や制度ごとに独自の要件を定めているケースもあり、必要な加入期間の年数にはばらつきがあります。
「はぐくみ企業年金」では、脱退一時金としての給付には加入者期間の要件を一切設けていません。たとえ加入期間が1ヵ月であったとしても、元本保証の脱退一時金が給付されます。
年金として受け取る(老齢給付金)
以下、どちらかの条件を満たしたとき、老齢給付金として年金上乗せ型での受け取りが可能になります。
- 60歳以上、65歳以下の規約で定められた年齢に達したとき
- 規約で定められた年齢(50歳以上)に達した日以降、事業所での仕事がなくなったとき
また年金として受け取る場合には、規約で定められた加入者期間の要件を満たす必要があります。この規約は「20年を超えないこと」を原則とし、会社や制度ごとに任意で定められます。
特例で受け取る(障害給付金や遺族給付金)
障害給付金や遺族給付金は、任意制度であるため、給付条件や内容といった規約の制定が会社や制度に任せられています。
障害給付金は制定しない会社が多く、遺族給付金は死亡退職扱いとし、脱退一時金か老齢給付金して給付する会社が多い傾向にあります。
2種類ある実施形態
確定給付企業年金には、「基金型」と「規約型」の2つの実施形態があります。
実施形態によって事業主要件や運用方法など細かい点が異なりますが、既存の制度を導入する場合は、「基金型」一択となります。
基金型と規約型について詳しく知りたい方は、こちらの記事( 基金型と規約型の違いについての記事)もご覧ください。
確定給付企業年金(DB)を導入するメリット
企業や事業主にとって、確定給付企業年金(DB)を導入するメリットは、主に以下の4点です。
- メリット①:採用力向上および離職率の改善
- メリット②:事業主掛金を損金扱いにできる
- メリット③:「選択制」を導入した場合、法定福利費の軽減が期待できる
- メリット④:柔軟な設計ができ、他の主要制度と併用も可能
メリット詳細は、以下で解説します。
メリット①:採用力向上および離職率の改善
確定給付企業年金は、ほかの退職金制度と比較しても、加入者にとってメリットが大きい制度です。
結果、確定給付企業年金を導入することは企業のイメージアップにつながり、採用力の向上や離職率の改善効果が期待できます。
特に中小企業の場合は、退職金制度が未導入の企業も多いため、他社と一線を画す福利厚生としてアピールしやすいでしょう。
メリット②:事業主掛金を損金扱いにできる
確定給付企業年金の掛金は原則、会社や事業主負担となりますが、その全額を損金計上でき、課税対象となりません。
確定給付企業年金を導入すると一定のランニングコストはかかりますが、内部留保を財源とした退職金制度に比べ、節税効果を得られるでしょう。
メリット③:「選択制」を導入した場合、法定福利費の軽減が期待できる
「選択制確定給付企業年金」という仕組みで制度設計を行った場合、法定福利費の軽減が期待できます。
選択制の確定給付企業年金では、給与を減額し、減額した部分の全部または一部を「退職金掛金」にできるようにします。これによって標準報酬月額の等級が下がれば、社会保険料の軽減に繋がることになります。
メリット④:柔軟な設計ができ、他の主要制度と併用も可能
確定給付企業年金は、法律が示す範囲内であれば柔軟な設計ができるほか、企業型確定拠出年金(企業型DC)やiDeCo(イデコ)、中小企業退職金共済(中退共)などとの併用も可能です。
会社ごとのニーズに合わせた退職金制度を整えるうえでは、重宝するでしょう。
確定給付企業年金(DB)に加入するメリット
確定給付企業年金(DB)の加入者(従業員など)は、主に以下のメリットを感じやすいでしょう。
- メリット①:老後を考えたときに安心感が強い
- メリット②:「中途退職時」に受給できる
- メリット③:「選択制」を導入した場合、所得税、住民税などが軽減できる
- メリット④:加入対象は厚生年金被保険者
- メリット⑤:ほかの主要制度と併用可能
メリット詳細は、以下で解説します。
メリット①:老後を考えたときに安心感が強い
確定給付企業年金は、従業員など加入者が受け取る給付額を予め約束した制度になります。
資産運用の結果によって給付額が変動する確定拠出年金(DC)と比べると、老後をはじめとした将来設計を考えやすく、安心感を得られるでしょう。
メリット②:「中途退職時」に受給できる
確定給付企業年金は、制度にもよりますが、一定条件を満たせば中途退職時にも退職一時金が給付されます。
つまりは転職がしやすく、柔軟なキャリア設計が可能です。
一方、確定拠出年金(企業型確定拠出年金など)は、受給要件に60歳以上という年齢制限があります。老後資金以外の幅広いニーズを満たせるのは、確定給付企業年金です。
メリット③:「選択制」を導入した場合、所得税や住民税などが軽減できる
「選択制確定給付企業年金」を導入した場合、加入者は「選択給」の全部または一部を退職金掛金に充てられ、その分課税対象でなくなることから、所得税や住民税、社会保険料などの負担軽減につながることになります。
メリット④:加入対象は厚生年金被保険者
確定給付企業年金は、原則として厚生年金保険の被保険者であれば加入でき、一般従業員のほか、経営者や役員なども加入可能です。
また資産運用は信託会社や生命保険会社が担うケースが多いことから、投資信託に近いメリットもあります。
資産運用の知識を求められる確定拠出年金よりも、確定給付企業年金は取っつきやすいでしょう。
メリット⑤:ほかの主要制度と併用可能
確定給付企業年金(DB)は、企業型確定拠出年金(企業型DC)やiDeCo(イデコ)、中小企業退職金共済(中退共)などとの併用が可能です。
ただし、掛金の限度額が変わりますのでご注意ください。
企業や事業主にとってのデメリット
確定給付企業年金(DB)を導入した場合、企業や事業主には以下のデメリットが考えられるでしょう。
- デメリット①:運用結果によっては会社に補填負担が発生する
- デメリット②:一定のコストがかかる
デメリットの詳細は、以下で解説します。
デメリット①:運用結果によっては会社に補填負担が発生する
確定給付企業年金(DB)は、資産運用の結果によって約束した給付額に達しなかったときには、その差額を会社が負担して補填する必要があります。
そのため、なるべく安全性の高い運用を心掛けたり、「キャッシュバランスプラン」などの仕組みを導入して運用リスクを抑えていくのが望ましいでしょう。
「基金型」の確定給付企業年金である「はぐくみ企業年金」の場合
「基金型」の確定給付企業年金である「はぐくみ企業年金」(正式名用:福祉はぐくみ企業年金基金)の場合、一般勘定などを中心とした「資産保全性の高いポートフォリオ」、「複数の国内大手生命保険会社が運用を担当」、さらに積立不足が発生しにくい「キャッシュバランスプラン」によって運用面でのリスクを限りなく抑えた仕組みを整えています。
デメリット②:一定のコストがかかる
確定給付企業年金に限りませんが、退職金制度を整え、運用を続けるためには、一定のコストがかかります。
確定給付企業年金に関していえば、新規で制度を作成する場合には、特に大きなコストがかかるほか、時間や手間も多く要するでしょう。
既存の制度を導入する場合には、運営管理手数料がランニングコストとしてかかります。
加入者(従業員など)にとってのデメリット
加入者にとってのデメリットの少なさが強みである確定給付企業年金(DB)ですが、唯一デメリットといえるのは「積極的な資産運用ができない」ことでしょう。
デメリット:積極的な資産運用ができない
企業型確定拠出年金やiDeCoといった「確定拠出年金(DC)」は、自分で資産運用ができるのに対し、確定給付企業年金は資産運用を外部の機関に任せつつリスクを抑えた運用が一般的です。
だからこそ積み立てた掛金(運用資産)が目減りすることはありませんが、確定拠出年金に比べると、運用による大きなリターン(キャピタルゲイン)は期待できないでしょう。
「基金型」の「確定給付企業年金」でおすすめの制度のご紹介
「基金型確定給付企業年金」のおすすめ制度と、さまざまな退職金制度について紹介しているおすすめ記事をご紹介します。
おすすめは「はぐくみ企業年金」
はぐくみ企業年金は、現在、導入企業や加入者が急増している注目の企業年金・退職金制度です。
選択制などの制度設計により、会社負担を少なく始められるなど、従業員、経営者、会社それぞれにメリットが生れるとてもおすすめの制度です。
はぐくみ企業年金と主要制度との比較
基金が資産を運用 運用成績により変動しない
はぐくみ企業年金
企業型確定拠出年金
中小企業退職金共済
根拠法
確定給付企業年金法
確定拠出年金法
中小企業退職金共済法
任意加入
可能
可能
全員加入
加入年齢
70歳未満
70歳未満
制限なし
加入制限
役員も拠出可
役員も拠出可
役員は拠出不可
税制優遇
有り
有り
有り
社会保険料
軽減可 (※1)
軽減可 (※2)
軽減不可
掛金拠出
会社の実質的な負担を抑制 (※1)
会社が負担 (※2)
(会社負担分は損金計上可)
会社が負担
(会社負担分は損金計上可)
拠出金
上限/月
1,000円~給与の20% (上限40万円)
1,000円~55,000円
※iDeCoと併用の場合、上限額が変わります
5,000円~30,000円の16段階 (※3)
運用
加入者が資産を運用
機構(※4)が資産管理・運用
受給額
運用成績により変動しない
運用成績により変動する
受取り
一時金又は年金/
退職時、休職時、
育児・介護休業時にも受取り可能
一時金又は年金/
但し、原則60歳以上に制限
一時金又は分割払い/
退職後に受取り可能
※2:「選択制」を採用した場合、軽減できることがあります。
※3:パートタイマーなど短時間労働者の場合、特例掛金月額として2,000円から可能になります。
※4:ここでは「独立行政法人 勤労者退職金共済機構」のことを「機構」といいます。
まとめ記事で11の選択肢を紹介
こちらのまとめ記事で、退職金制度の選択肢を11件まとめて紹介しています。
他の制度のメリットやデメリットを体系的に比較・検討することができます。
※こちらの記事は2023年3月時点の情報を参照の上、執筆しております。
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