小規模企業共済を解約すると、共済金等が受け取れます。必要書類を中小機構へ郵送し、手続きをしましょう。
ただし、受け取れる金額は、納付月数や理由によって異なります。場合によっては、掛け捨てとなる恐れがあるため、注意が必要です。
そこで本記事では、小規模企業共済の解約に伴い受け取れる共済金等について、詳しく解説します。
受取額のシミュレーションもまとめているので、「今、やめてしまってよいのか。まだ機会をうかがうべきか」が判断できるほか、今後の見通しも立てやすくなるでしょう。
小規模企業共済の解約を検討している個人事業主や共同経営者、会社等役員の方は、ぜひご一読ください。
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目次
そもそも小規模企業共済とは?
小規模企業共済とは、「小規模企業の経営者が自分のために積み立てる退職金制度」です。
退職・廃業時、または65歳以上からの老齢給付として、共済金が受け取れます。さらに任意解約もいつでも可能となっており、その場合には解約手当金が受け取れます。
そのほか小規模企業共済のメリット、デメリットなど詳しくは、以下の記事もご覧ください。
小規模企業共済の共済金や解約手当金について
小規模企業共済は、原則どのような理由であっても、共済金または解約手当金を請求できます。
ただし、請求事由や契約者の事業上の地位によって、受け取れる共済金等の種類が以下の4パターンに分かれます。
- 共済金A
- 共済金B
- 準共済金
- 解約手当金
これら種類により、受け取れる金額も異なります。まずは、「自分の請求事由はいずれの種類になるのか」から見極めましょう。
- 【参考】「請求事由」とは?
- 「事業を廃業した」や「契約者が死亡した」など、解約理由のことを指します。
「請求事由」から分類される共済金等の種類
請求事由および事業上の地位における共済金等の種類は、下表のとおりです。
ざっくりと分けると、事業の廃業をはじめ解約がやむを得ない場合や、老齢給付として受け取る場合には、共済金となります。任意で解約した場合には、解約手当金です。
共済金等の種類 | 請求事由 | ||
---|---|---|---|
個人事業主の場合 | 個人事業主の共同経営者の場合 | 会社等役員の場合 | |
共済金 A |
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共済金 B |
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準共済金 |
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解約手当金 |
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|
共済金 A
「共済金A」に当てはまる請求事由は、事業の廃業や会社の解散、契約者の死亡が主です。
事業の譲渡に伴う廃業に関しては、譲渡日によって共済金Aとなるか、準共済金となるかが決まるため、注意しましょう。
契約者の事業上の地位 | 請求事由 |
---|---|
個人事業主 |
|
個人事業主の共同経営者 |
|
会社等役員 |
|
いずれの請求事由であっても、掛金納付月数が6ヵ月未満のケースでは、共済金の請求資格がなく、掛け捨てとなります。
共済金の受け取り方法は一括が基本ですが、特定条件(※詳細は後述)をすべて満たせば分割や、一括と分割の併用が可能です。
共済金 B
「共済金B」は、主に老齢給付を対象としています。
会社等役員のみは、ほかにもいくつかの請求事由が認められます。
ただし、65歳以上で役員を退任したことが理由である場合、退任日によっては準共済金になるため、見極めましょう。
契約者の事業上の地位 | 請求事由 |
---|---|
個人事業主 |
|
個人事業主の共同経営者 |
|
会社等役員 |
|
老齢給付として受け取るには、「65歳以上であること」と「掛金の納付月数が180ヵ月以上であること」が条件です。事業廃止の条件はないため、仕事を継続しながら共済金を受け取れます。
共済金Bは、Aと同じく掛金納付月数が6ヵ月未満の場合には、掛け捨てとなります。
受け取り方法も共済金Aと変わらず、一括が基本ですが、分割・併用も条件次第では可能(※詳細は後述)です。
準共済金
「準共済金」は、主に共済金AやBに当てはまらない状況で、小規模企業共済の加入資格を失った場合を対象としています。
ただし、契約者が個人事業主であり、かつ加入日が平成22年12月以前であれば、法人成りにより加入資格を失った場合でも、共済金Aの対象となります。
契約者の事業上の地位 | 請求事由 |
---|---|
個人事業主 |
|
個人事業主の共同経営者 |
|
会社等役員 |
|
請求条件はやや厳しくなり、掛金の納付月数が12ヵ月未満の場合は、掛け捨てになります。
共済金の受け取り方法は、一括のみです。分割や併用は、選択できません。
解約手当金
解約手当金は、共済金のすべてに当てはまらない場合に請求できます。任意による解約のほか、掛金の未払いによる機構解約も対象です。
ただし、不正行為による機構解約では、請求できません。
契約者の事業上の地位 | 請求事由 |
---|---|
個人事業主 |
|
個人事業主の共同経営者 |
|
会社等役員 |
|
納付月数が12ヵ月未満の場合は、掛け捨てとなります。受け取り方法は、一括のみです。
小規模企業共済の受取額とシミュレーション
ここでは、小規模企業共済の共済金等が、実際にどのぐらいの金額になるのかをシミュレーション結果から確認しましょう。
結論からいって、掛金合計額を上回るための納付月数は、共済金は易しく、解約手当金は厳しい傾向にあります。
「共済金A」「共済金B」「準共済金」の受取額シミュレーション
共済金の受取額は、小規模企業共済法施行令(別表第一)で定められた「基本共済金(固定額)」に、「付加共済金(基本共済金×支給率)」を足して決まります。
シミュレーションをする際には、まずは基本共済金を明らかにしましょう。
注意点として、小規模企業共済法施行令(別表第一)に記載された金額は、掛金1口(500円)あたりの値です。月の掛金が1万円の場合は20口分、5万円なら100口分となり、「表内の金額×口数」で、基本共済金額が算出できます。
参考までに、毎月1万円を納付していた場合の基本共済金額をまとめたシミュレーション結果を確認しましょう。
掛金納付年数 (掛金合計額) |
5年 (600,000円) |
10年 (1,200,000円) |
15年 (1,800,000円) |
20年 (2,400,000円) |
---|---|---|---|---|
共済金A | 621,400円 | 1,290,600円 | 2,011,000円 | 2,786,400円 |
共済金B | 614,600円 | 1,260,800円 | 1,940,400円 | 2,658,800円 |
準共済金 | 614,600円 | 1,200,000円 | 1,800,000円 | 2,419,500円 |
たとえば5年間、毎月1万円を納付していた場合には、別表第一の第一欄「六〇月」の行を確認します。
共済金Aの場合は、第二欄(※)の「31,070円」が基準額です。これに口数をかけると、621,400円(31,070円×20口)となり、基本共済金額が分かります。
(※)別表第一の第二欄は共済金A、第三欄は共済金B、第四欄は準共済金の基準額を示しています
付加共済金の支給率は運用収入等に応じ、毎年度、異なります。参考までに、令和6年度は0.673%(参照:中小機構)でした。
例年、そこまで大きな利率ではありません。今後の見通しを立てる際には、基本共済金の受取額のみを参考にするのが妥当でしょう。
「解約手当金」の受け取り例
解約手当金の受取額は、「掛金合計額×支給率」によって決まります。
支給率は、掛金の納付月数ごとに定められているので、自分の加入状況と以下を照らし合わせてみましょう。
■納付月数別の支給率(一例)
- ~11ヵ月…0.0%(掛け捨て)
- 12ヵ月~83ヵ月…80.0%
- 120ヵ月~125ヵ月…85.0%
- 240ヵ月~245ヵ月…100.0%
- 720ヵ月~…120.0%
※小規模企業共済法施行令(別表第二)にすべての支給率記載あり
参考までに、毎月の納付額が1万円のときのシミュレーションを確認しましょう。
掛金納付年数 (掛金合計額) |
5年 (600,000円) |
10年 (1,200,000円) |
15年 (1,800,000円) |
20年 (2,400,000円) |
---|---|---|---|---|
解約手当金 | 480,000円 | 1,020,000円 | 1,665,000円 | 2,400,000円 |
解約手当金は共済金に比べ、掛金合計額を上回る条件が厳しく設定されていることが分かります。
掛金と同等の受取額になるのは、納付年数が20年(240ヵ月)になったタイミングです。
小規模企業共済を解約した場合の注意点
小規模企業共済を任意解約する際には、時期を見極めることをおすすめします。タイミングを誤ると、以下のような損失を受ける恐れがあるためです。
- 掛金の納付月数が12ヵ月未満での解約…掛け捨てとなる
- 納付月数が240ヵ月未満での解約…手当金が掛金合計額を下回る
- 掛金の増額・減額を過去にしていての解約…手当金が掛金合計額を下回ることがある
当てはまる場合は、急ぎで解約しなくてはいけない事情がない限り、見送りを検討しましょう。
なお、納付月数は、毎年3月ごろに届く「掛金納付状況及び貸付限度額等のお知らせ」で確認できます。
掛金納付月数が12ヵ月未満の場合は、解約手当金は受け取れない
解約手当金を請求するには、掛金の納付月数が12ヵ月以上なくてはいけません。
解約手続きの時点で納付月数が12ヵ月未満の場合は、掛け捨てとなるので気を付けましょう。
掛金納付月数が240ヵ月(20年)未満の場合、掛金合計額を下回る
解約手当金が掛金合計額と同等になるのは、納付月数が240ヵ月(20年)以上に至ったときです。12ヵ月~239ヵ月で解約した場合には、掛金合計額の80%~99.25%が受取額となります。
■納付月数別の支給率(12ヵ月~239ヵ月まで分)
- 12ヵ月~83ヵ月…80.000%
- 84ヵ月~89ヵ月…80.500%
- 90ヵ月~95ヵ月…81.250%
- 96ヵ月~101ヵ月…82.000%
- 102ヵ月~107ヵ月…82.750%
- 108ヵ月~113ヵ月…83.500%
- 114ヵ月~119ヵ月…84.250%
- 120ヵ月~125ヵ月…85.000%
- 126ヵ月~131ヵ月…85.750%
- 132ヵ月~137ヵ月…86.500%
- 138ヵ月~143ヵ月…87.250%
- 144ヵ月~149ヵ月…88.000%
- 150ヵ月~155ヵ月…88.750%
- 156ヵ月~161ヵ月…89.500%
- 162ヵ月~167ヵ月…90.250%
- 168ヵ月~173ヵ月…91.000%
- 174ヵ月~179ヵ月…91.750%
- 180ヵ月~185ヵ月…92.500%
- 186ヵ月~191ヵ月…93.250%
- 192ヵ月~197ヵ月…94.000%
- 198ヵ月~203ヵ月…94.750%
- 204ヵ月~209ヵ月…95.500%
- 210ヵ月~215ヵ月…96.250%
- 216ヵ月~221ヵ月…97.000%
- 222ヵ月~227ヵ月…97.750%
- 228ヵ月~233ヵ月…98.500%
- 234ヵ月~239ヵ月…99.250%
納付月数ごとの支給率は、以上のとおりです。自分の加入状況と照らし合わせて、いくらの損失が生まれるかを計算してみましょう。
加入期間が240ヵ月以上でも掛金合計額を下回ってしまう場合がある
過去に掛金の増額または減額をしていた場合は、注意が必要です。加入期間が240ヵ月以上であっても、解約手当金が掛金を下回る恐れがあります。
以下のシミュレーションのように、小規模企業共済では、掛金額ごとに納付月数がカウントされるためです。
■Aさんの納付ケースにおけるシミュレーション
- 加入時に月1万円の掛金を設定し、180ヵ月継続
- 181ヵ月目から月2万円に増額し、120ヵ月継続した後に脱退
掛金月額 | 納付月数 | 支給率 | 解約手当金額 | 掛金合計額 |
---|---|---|---|---|
10,000円 | 180ヵ月 | 92.50% | 1,665,000円 | 1,800,000円 |
20,000円 | 120ヵ月 | 85.00% | 2,040,000円 | 2,400,000円 |
Aさんのケースでは加入期間は300ヵ月ですが、途中で増額をしているため、納付月数のカウントが2つに分かれてしまっています。
結果、49万5,000円ほど、掛金よりも解約手当金を下回ってしまいました。(※掛金額420万円-解約手当金額370万5,000円)
小規模企業共済の受取方法と税法上の取扱い
小規模企業共済の共済金等には、以下3つの受け取り方が用意されています。
- 一括
- 分割
- 一括・分割の併用
ただし、分割や併用は、特定条件を満たしている場合のみに利用可能です。受け取り方によって税法上の扱いも異なるため、解約の際には注意しましょう。
詳細は、以下をご確認ください。
共済金等の受取方法
小規模企業共済の共済金等は、一括での受け取りが基本です。
ただし、共済金AおよびBに関しては、以下の条件をすべて満たしている場合のみ、分割および一括・分割の併用を選択できます。
■共済金A・Bを分割または併用で受け取るための条件
- 請求事由が共済契約者の死亡ではない
- 請求事由の発生日には60歳以上であった
- 共済金の受け取り額が規定以上である(※)
(※)分割では、300万円以上であること
(※)併用では、一括分が30万円以上・分割分が300万円以上であること
税法上の取扱い
共済金等の受け取り方や、請求事由によって、税法上の扱いが異なります。すなわち徴収される税金の種類(それに伴う控除額)も異なるので、適切な方法を見極めましょう。
なお、併用受け取りの場合は、一括分と分割分でそれぞれ異なる扱いとなります。
退職所得扱いになる場合
以下いずれかの場合は、退職所得扱いになり、退職所得控除が適用されます。
- 共済金(死亡除く)または準共済金を一括で受け取った
- 65歳以上の方が任意解約をするまたは65歳以上の共同経営者が任意退任をした
- 個人事業主が法人成りした結果、加入資格はなくならなかったが、解約をした
公的年金等の雑所得扱いになる場合
共済金を分割で受け取った場合 、公的年金等の雑所得扱いになり、公的年金等控除が適用されます。
一時所得扱いになる場合
以下いずれかの場合は、一時所得扱いになり、最大50万円の特別控除があります。。
- 65歳未満の方が任意解約をするまたは65歳未満の共同経営者が任意退任をする場合
- 12か月以上の掛金の未払いによる解約(機構解約)で解約手当金を受け取る場合
また、一時所得は、総合課税の対象です。給与・事業所得など、そのほか総合課税対象と合算したうえで最終的な納税額が決まります。
合わせて検討したい「おすすめ退職金制度」とは?
こちらでは合わせて検討したいおすすめの退職金制度と、さまざまな退職金制度について紹介しているおすすめ記事を紹介します。
中小企業も導入できる退職金制度
小規模企業共済以外に、中小企業も導入できる退職金制度として「はぐくみ企業年金」「企業型確定拠出年金」「中小企業退職金共済」の3つを紹介します。
まずは、下表をご覧ください。
主要退職金制度の比較
はぐくみ企業年金 | 企業型確定拠出年金 | 中小企業退職金共済制度 | 小規模企業共済 | |
---|---|---|---|---|
種別 | 確定給付企業年金 | 確定拠出年金 | 退職金共済 | 退職金共済 |
任意加入 | 可能 | 可能 | 全員加入 (対象は従業員のみ) | ― (対象は経営者/役員) |
加入年齢 | 70歳未満 | 70歳未満 | 制限なし | 制限なし |
加入制限 | 役員も拠出可 | 役員も拠出可 | 役員は拠出不可 | 小規模企業の経営者又は役員 |
税制優遇 | 有り | 有り | 有り | 有り |
社会保険料 | 軽減可 (※1) | 軽減可 (※2) | 軽減不可 | 軽減不可 |
掛金拠出 | 会社の実質的な負担抑制 (※1) | 会社が負担 (※2) | 会社が負担 | 加入者が負担 |
拠出金上限/月 | 1,000円~給与の20% (上限40万円) | 1,000円~55,000円 | 5,000円~30,000円の16段階 (※3) | 1,000~70,000円の範囲 |
運用 | 基金が掛金を運用 |
加入者が掛金を運用 |
機構(※4)が資産管理・運用 | 機構(※4)が資産管理・運用 |
受給額 | 運用成績により変動しない |
運用成績により変動する |
運用成績により変動しない | 運用成績により変動しない |
受取り | 一時金又は年金/ 退職時、休職時、 育児・介護休業時にも受取り可能 | 一時金又は年金/ 但し、原則60歳以上に制限 | 一時金又は分割払い/ 退職後に受取り可能 | 一時金又は分割払い/ 退職後に受取り可能 |
※2:「選択制」を採用した場合、軽減できることがあります。
※3:パートタイマーなど短時間労働者の場合、特例掛金月額として2,000円から可能になります。
※4:ここでは「独立行政法人 勤労者退職金共済機構」または「独立行政法人 中小企業基盤整備機構」を「機構」といいます。
おすすめは「はぐくみ企業年金」
はぐくみ企業年金は、現在、導入企業や加入者が急増している注目の企業年金・退職金制度です。
選択制などの制度設計により、会社負担を少なく始められるなど、従業員、経営者、会社それぞれにメリットが生まれるとてもおすすめの制度です。
まとめ記事で11の選択肢を紹介
こちらのまとめ記事で、退職金制度の選択肢を11件まとめて紹介しています。
他の制度のメリットやデメリットを体系的に比較・検討することができます。
※こちらの記事は2024年9月時点の情報を参照の上、執筆しております。
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