小規模企業共済は、個人事業主または役員や共同経営者など立場によって条件や必要書類が異なります。
そこで本記事では、加入資格や加入方法を分かりやすくまとめました。これから小規模企業共済への加入を検討している経営層の方は、ぜひご一読ください。
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業が退職金を導入するために用いられる制度です。掛金はすべて所得控除の対象となるため、節税方法としても優れています。
そのほか、小規模企業共済の概要について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
そもそも小規模企業共済の加入資格(条件)は?
基本的には従業員数が20人以下の経営者(役員含む)や個人事業主に加入資格あり
小規模企業共済はその名前のとおり小規模企業向けの制度であるため、加入資格は主に従業員(組合員)数に関するものです。
業種・組織 | 加入資格(条件)および対象者 |
建設業 製造業 運輸業 サービス業(宿泊業・娯楽業のみ) 不動産業 農業 |
常時使用する従業員が20人以下
個人事業主または会社等の役員(※共同経営者も可、ただし個人事業主1人に付き2人まで) |
商業(卸売業・小売業)
サービス業(宿泊業・娯楽業を除く) |
常時使用する従業員が5人以下
個人事業主または会社等の役員(※共同経営者も可、ただし個人事業主1人に付き2人まで) |
企業組合 協業組合 |
常時使用する組合員または従業員の数が20人以下 役員 |
農事組合法人(農業の経営を主としている) | 常時使用する従業員の数が20人以下 役員 |
弁護士法人 税理士法人 |
常時使用する従業員が5人以下 社員 |
小規模企業共済の加入資格(条件)は業種や組織によって異なりますが、多くの場合は従業員数が20人以下の会社の事業主や役員であれば加入できます。
商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)、弁護士法人、税理士法人に限っては、従業員の制限数が5人までです。
補足情報
一般的な共済金制度と異なり、加入に年齢制限はありません。ただし共済金を老齢給付(年金)として受け取る場合には、「180ヵ月以上の掛金を払い込み済みであること」が条件となっているため、加入時期は検討しましょう。
小規模企業共済の加入までの流れ
小規模企業共済に加入するには、以下の流れで手続きを進めます。
- 必要書類を入手して記入
- 中小機構の委託団体または金融機関の窓口へ提出
- 中小機構からの書類の受取
原則、書類提出のみで済みますが、必要書類の種類は共済契約者の立場によって異なります。スムーズに手続きを進めるため、以下で詳細をご確認ください。
1.必要書類を入手して記入
まずは加入手続きに必要な書類を手に入れましょう。必要書類は以下の3種類です。
- 契約申込書(様式 小 101)
- 預金口座振替申出書
- 立場を証明できる公的書類等
契約申込書と預金口座振替申出書は、中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)の公式ホームページより資料請求することで手に入ります。
資料は請求からおよそ1週間で到着します。手元に届いたら、必要事項を記入しましょう。記入方法が分からないときは、こちらの例をご確認ください。
契約者の立場を証明するための公的書類等は、下表のうち当てはまるものを「原本」で用意します。
立場 | 該当する公的書類 |
個人事業主 | 確定申告書の控え、開業まもなくで用意できない場合には開業届の控え(※) |
法人(株式会社等)役員 | 履歴事項全部証明書(商業・法人登記簿謄本)等、役員登記されていることが確認可能な書類 |
共同経営者 |
|
2.中小機構の委託団体または金融機関の窓口へ提出
必要書類がすべてそろったら、中小機構の委託団体または金融機関の窓口へ提出し、加入手続きを進めます。
小規模企業共済は中小機構が運営する制度ですが、加入をはじめ一般的な手続きや相談などは、委託先の窓口でおこないます。
代理店
- 都市銀行、信託銀行、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合、商工組合中央金庫、農業協同組合(34都道府県)
委託団体
- 商工会、商工会議所、中小企業団体中央会、事業協同組合、青色申告会、損害保険ジャパン株式会社、アクサ生命保険株式会社
委託先はどこを選んでも構いませんが、一般的には最寄りの銀行を選ぶ方が多いでしょう。最寄りの銀行が代理店に含まれるかどうかは、こちらの代理店(金融機関)一覧をご参照ください。
一覧に含まれる銀行であっても、支店によって対応可能な業務は異なります。電話やメール等で事前に確認してから、窓口まで足を運ぶのがおすすめです。
なお、加入手続きの際には、初回掛金の支払いおよび前納が可能です。1ヵ月、半年、1年の区分で支払いができるので、希望する区分に応じた現金を窓口まで持参しましょう。
3.中小機構からの書類の受取
申込日から約40日で、中小機構から2種類の書類が送付されます。
- 小規模企業共済手帳
- 小規模企業共済制度加入者のしおり及び約款
その後は、特にこれといった手続きは必要ありません。以後は掛金が、毎月18日に指定口座より払い込まれます。
半年払いや年払いでは、共済契約が成立した月が納付月です。(例:2月に契約が成立した場合:半年払いなら毎年2月と8月、年払いなら毎年2月のそれぞれ18日が納付日となる)
小規模企業共済はオンラインでも手続きができるように
2023年9月1日から、小規模企業共済がオンライン手続きに対応しました。
オンライン申請が可能な手続き |
|
※2:2023年9月から受け付け開始予定、電子交付開始は11月下旬を予定
※3:手続きと同時に現金納付を希望する場合は、委託窓口のみで対応、オンライン申請不可
オンライン手続きは、「小規模企業共済オンライン手続きポータル」にログインして進めます。まずは、以下を手元に用意して利用申し込みをおこないましょう。
- マイナンバーカード
- マイナポータルAP
- パソコン+ICカードリーダライタ(もしくはスマートフォン)
今後の展望としてはオンラインにて対応可能なサービスをさらに拡充し、2025年内に全面的なオンラインサービスの提供を目指しているといいます。
小規模企業共済についてのQ&A
小規模企業共済に関するよくある質問に回答します。
Q.小規模企業共済の共済金(解約手当金)はいくらになりますか?
A.たとえば、月に1万円を15年間(180ヵ月・合計掛金180万円)納付していた場合の共済金(解約手当金)額は下表のとおりです。
なお契約者の立場により各共済金(解約手当金)額が変わることはありませんが、各共済金の対象となる条件は立場によって変わります。
個人事業主の場合
種類 | 請求事由 | 共済金(解約手当金)額 |
共済金A |
|
201万1,000円 |
共済金B |
|
194万400円 |
準共済金 |
|
180万円 |
解約手当金 |
|
165万1,500円(返戻率91.75%) |
法人(株式会社等)役員の場合
種類 | 請求事由 | 共済金(解約手当金)額 |
共済金A |
|
201万1,000円 |
共済金B |
|
194万400円 |
準共済金 |
|
180万円 |
解約手当金 |
|
165万1,500円(返戻率91.75%) |
共同経営者の場合
種類 | 請求事由 | 共済金(解約手当金)額 |
共済金A |
|
201万1,000円 |
共済金B |
|
194万400円 |
準共済金 |
|
180万円 |
解約手当金 |
|
165万1,500円(返戻率91.75%) |
小規模企業共済は原則、元本割れのない制度です。
ただし解約手当金として受け取る場合には、掛金の納付月数に伴って返戻率が変動。納付月数が240ヵ月未満だと返本率が100%を下回るため、元本割れしてしまいます。
Q.小規模企業共済の解約手当金の受け取り時の税金はどうなりますか?
A.解約手当金は全額が一時所得扱いとなり、課税対象となります。
課税される所得額は、「(解約返戻金の金額-特別控除50万円)÷2」にそのほかの所得を足したうえで計算されます。(例:解約返戻金が165万円の場合、課税される所得額は57万5,000円)
また共済金に関しても一括で受け取る場合には退職所得扱いとなり、分割で受け取る場合のみは公的年金等の雑所得扱いとなります。
共済契約者が亡くなり、遺族が死亡退職金として受け取る場合には、みなし相続財産に区分されます。
Q.小規模企業共済の運営元が潰れると掛金はどうなる?
A.小規模企業共済の運営元が潰れることは、まずありません。
理由としては中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)は、国が運営している機関であるためです。
また小規模企業共済では、解約手当金の給付に関して、年齢や掛金の払い込み月数等の条件を設けていません。万が一、破綻リスクがあると判断した場合は、前もって解約が可能です。
Q.小規模企業共済の掛金の増額、減額はできる?
A.小規模共済の掛金は増額、減額ともに可能です。増額も減額も500円単位で、1,000円~7万円の範囲内で変更できます。
変更を希望する際には、オンラインでの手続きが推奨されています。小規模企業共済オンライン手続きポータルにログインし、手続きを進めましょう。
委託窓口での手続きを望む場合は、事前に自動音声ガイダンス(042-567-3308、受付時間AM6:00~AM0:00)、またはコールセンター(050-5541-7171、平日AM9:00~PM5:00)に連絡し掛金月額変更申込書を取り寄せてください。
小規模企業共済に加入する前に検討したい「はぐくみ企業年金」
小規模企業共済と同じく「退職金制度として利用可能」でありながら、ほかにも「さまざまなメリット」がある「はぐくみ企業年金」をご存じでしょうか。
はぐくみ企業年金は確定給付型の企業年金制度(DB)のひとつであり、厚生労働大臣の認可を受け、運営されている企業年金制度です。
はぐくみ企業年金 | 小規模企業共済 | |
---|---|---|
種別 | 確定給付企業年金 | 退職金共済 |
任意加入 | 可能 | ― (対象は経営者/役員) |
加入年齢 | 70歳未満 | 制限なし |
加入制限 | 役員も拠出可 | 小規模企業の経営者又は役員 |
税制優遇 | 有り | 有り |
社会保険料 | 軽減可 (※1) | 軽減不可 |
掛金拠出 | 会社の実質的な負担抑制 (※1) | 加入者が負担 |
拠出金上限/月 | 1,000円~給与の20% (上限40万円) |
1,000~70,000円の範囲 |
運用 | 基金が掛金を運用 | 機構(※3)が資産管理・運用 |
受給額 | 運用成績により変動しない | 運用成績により変動しない |
受取り | 一時金又は年金 退職時、休職時、 育児・介護休業時に受取り可能 |
一時金又は分割払い 退職後に受取り可能 |
※2:本来、事業主が負担する掛金を、給与から切り出す「選択制」を採用して従業員が負担した場合は、軽減できる場合があります。
※3:ここでは「独立行政法人 勤労者退職金共済機構」または「独立行政法人 中小企業基盤整備機構」を「機構」といいます。
はぐくみ企業年金について、小規模企業共済と大きく異なる点やメリットは、以下の5つです。
- 「選択制」などの制度設計により、法定福利費などの軽減効果が期待できる(※1)
- 高齢期の資産形成が目的の制度だが、退職時や休職時などにも受け取りが可能
- 経営者だけでなく、従業員も加入可能(厚生年金被保険者であれば加入可能)
- 掛金の上限月額が給与や役員報酬の20%(最大40万円)である
- 事業主が負担する掛金の抑制が可能(※2)
(※2)会社からの追加掛金拠出を行うことも可能です。
まず大きな違いとして、小規模企業共済の掛金は最大でも毎月7万円までとなっていますが、はぐくみ企業年金では給与や役員報酬の20%(最大40万円)まで拠出可能です。
また、掛金は事業主掛金として会社から拠出しますが、「選択制確定給付企業年金」という制度設計によって、※この費用を抑えることができます。
※会社からの追加掛金拠出を行うことも可能です。
さらに、前述の制度設計によって、結果的に加入者(経営者や従業員)の会社の法定福利費(一部、社会保険料など)の負担軽減にも繋がることになります。
給付の受け取りについても、小規模企業共済のように退職時にのみ元本保証が制限されている制度ではありません。
同制度のように高齢期の資産形成が基本となる制度とはいえ、退職時や休職時、育児・介護休業時などにも退職給付を受け取ることができます。
なお、「厚生年金被保険者」であれば、経営者や役員層の方も、非正規雇用を含む従業員もはぐくみ企業年金に加入することができます。
このように、はぐくみ企業年金は経営層の方、従業員、会社、それぞれにメリットが生まれるおすすめの制度です。
小規模企業共済に加入する前にぜひ一度、下記の詳細ページをご参照ください。