役員退職金(役員退職慰労金)は、法律で支給が義務付けられたものではないため、会社によって支給額の算定方法が異なります。
しかし、不当に高額な退職金は税務調査の対象となります。一般的には、功績倍率法や1年あたり平均額法という計算式を用いて、退職金の目安額を算出します。
そこで本記事では、役員退職金(役員退職慰労金)の計算方法を具体的なシミュレーションとともに解説します。退職金制度を設計するうえで具体的な目安額を知りたい方や、役員退職金(役員退職慰労金)を受給予定の方で具体的な金額目安を知りたい方はぜひご一読ください。
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目次
そもそも会社役員の退職金について税務上は限度額がある
会社役員の退職金(役員退職慰労金)は、原則自由に定められます。ただし「不当に高額」と判断される部分は役員賞与の扱いとなり、税務上での損金算入ができません。
不当に高額とされない退職金の適正額はケースバイケースであるため、明確な限度額はありません。
しかし、過去の裁判例から推察すると、以下のようなケースでは不当に高額と判断されやすいことが分かります。
- 退職直前に報酬月額が極端に増額されている
- 功績倍率の値が極端に大きい
このようなケースはあるにせよ常識的な範囲内の計算方法であれば、大きな問題にはなりにくいでしょう。常識的な範囲内の算定方法について詳しくは、以下で改めて解説します。
役員退職金の計算方法
功績倍率法上の役員退職金額=退任時の報酬月額×役員在任年数×功績倍率
役員退職金(役員退職慰労金)の計算方法は特に定められていませんが、一般的には「功績倍率法」という役員の業務の功績に応じて計算する方法を用います。
功績倍率について
功績倍率法の計算式に含まれる「功績倍率」とは、役職ごとに定めた値のことですが、法律でこれといった値が定められている訳ではありません。
一般的には、昭和55年の裁判で用いられた「社長3.0・専務2.4・常務2.2・平取締役1.8・監査役1.6」の倍率を目安にする企業が多いようです。
功績倍率の設定値(平均と最高値)
役職 | 平均 | 最高値 | ||
全体 | 規模50名以下 | 規模51名以上 | ||
会長 | 2.5 | 2.54 | 2.47 | 4.5 |
社長 | 2.52 | 2.45 | 2.59 | 4.5 |
副社長 | 2.13 | 2 | 2.23 | 4 |
専務 | 1.89 | 1.78 | 2 | 3.5 |
常務 | 1.69 | 1.57 | 1.8 | 2.9 |
取締役 | 1.37 | 1.34 | 1.41 | 2.3 |
監査役 | 1.28 | 1.2 | 1.35 | 2 |
※回答者数:73社(うち従業員数50名以下38社、51名以上35社)
引用:「役員報酬・賞与・退職金」「各種手当」中小企業の支給相場【2023年版】
役職ごとの功績倍率の全国平均については上記をご確認ください。
社長の功績倍率を「3」としていたのは全体の36.6%、取締役は「1」が約半数でした。
役員退職金の具体例(中小企業の場合)
功績倍率法を用いた役員退職金(役員退職慰労金)の具体的な計算方法および金額は以下のシミュレーションをご確認ください。
退職時の状況
- 最終役職:社長(代表取締役)
- 退任時の報酬月額:113.5万円
- 役員在任年数:20年
- 功績倍率:3.0
※従業員数51~100名の中小企業を想定
功績倍率法に基づく役員退職金(役員退職慰労金)
6,810万円(計算式:113.5万円×20年×3.0)
引用:書籍「役員報酬・賞与・退職金」中小企業の支給相場
役員退職金の受け取り方
役員退職金(役員退職慰労金)の受け取り方は、一般的に3パターンに分けられます。
- 一時金形式
- 年金形式
- 分割形式
一時金形式とは退職金を一括で受け取る形式を指します。一時金形式の場合、退職所得控除が受けられます。年金形式に比べると税金の負担が減ります。その反面、年金形式の場合では実際の支払日まで運用するため、その運用益も含めれば、一括で受け取る一時金方式に比べて受け取れる退職金の総額も減ります。
年金形式で退職金を受け取る場合は雑所得の扱いになるので、受け取り期間中は毎年、課税対象になります。一時金形式よりも税金の負担は増えやすいでしょう。また、年金額やそのほかの収入額にもよりますが、国民健康保険料や介護保険料が一時金形式よりも高くなることもあります。
分割形式とは、高額な退職金を一括で支払うことが困難な企業で用いられる形式です。
分割形式は、①分割支給の決議を株主総会等で行う(議事録を作成)、②分割支給が妥当とされる合理的理由がある、③分割期間が長期間でないこと(※年金形式に相当しない)といった3つの要件を満たしている場合のみ、利用できます。
分割形式で受け取る場合には退職所得控除が受けられ、一時金形式とメリットとデメリットは変わりません。
役員退職金にかかる税金について
ここでは、役員退職金(役員退職慰労金)を受け取る際にかかる税金の詳細を解説します。具体的なシミュレーション結果もまとめているので、自分のケースと照らし合わせて、老後資金の準備やリタイアメントプランニングにお役立てください。
退職金にかかる所得税
役員退職金を(役員退職慰労金)一時金として受け取った場合、税金は以下の計算式で算出されます。
所得税額=課税退職所得金額×所得税率-控除額
実際に計算する際には以下の手順で、まずは式に用いられる値を明らかにするとよいでしょう。
- 退職所得控除を計算する
- 課税退職所得金額を計算する
- 課税所得に対する税率と控除額を確認する
- 所得税額を計算する
ここからはそれぞれの手順を詳細に解説しますが、具体的な例として、「勤続年数25年の役員が7,000万円の退職金を受け取ったケース」を想定したシミュレーションも含めて解説します。
なおこちらの想定での所得税額は、890.4万円です。
①退職所得控除額を計算する
退職所得控除額は勤続年数が20年以下のときは「40万円×勤続年数(※算出額が80万円に満たない場合は80万円)」、20年を超えるときは「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」の算式によって計算します。
(例)800万円+70万円×(25年-20年)=1,150万円
例の場合は勤続年数が25年のため、以上の計算式となり、退職所得控除額は1,150万円です。
②課税退職所得金額を計算する
課税退職所得金額は、「(退職金-退職所得控除額)×1/2」で計算できます。
(例)(7,000万円-1,150万円)×1/2=2,925万円
事例のケースだと、退職金7,000万円から退職所得控除額の1,150万円を引いた額に、1/2を掛けて算出した「2,925万円」が課税退職所得金額となります。
③課税所得に対する税率と控除額を確認する
課税所得に対する税率と控除額は、国が示す税額表と照らし合わせることで確認できます。
所得税の税額表(令和5年分)
課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円~194.9万円 | 5% | 0円 |
195万円~329.9万円 | 10% | 9.75万円 |
330万円~694.9万円 | 20% | 42.75万円 |
695万円~899.9万円 | 23% | 63.6万円 |
900万円~1,799.9万円 | 33% | 153.6万円 |
1,800万円~3,999.9万円 | 40% | 279.6万円 |
4,000万円以上 | 45% | 479.6万円 |
例の場合は課税退職所得金額が2,925万円なので、税率は40.0%、控除額は279.6万円です。
④所得税額を計算する
ここまでで明らかになった数値を「課税退職所得金額×所得税率-控除額」の式に当てはめると、所得税額が計算できます。
(例)2,925万円×40.0%-279.6万円=890.4万円
例の場合は課税退職所得である2,925万円に税率40%を掛け、そこから279.6万円を引いた890.4万円が所得税額となります。
すると、所得税額は890.4万円ですが、実際にはここに復興特別所得税(2024年1月時点では、2037年12月31日まで徴収予定)も乗るため、この金額よりもやや高い額が差し引かれるでしょう。
復興特別所得税も含む所得税額の計算式は、「課税退職所得金額+(課税退職所得金額×2.1%※円未満は切り捨て)」で計算できます。
(例)890.4万円+(890.4万円×2.1%)=9,090,984円
役員退職金の支給までの一般的な流れ
役員退職金(役員退職慰労金)が支給されるまでの一般的な流れは、以下のとおりです。
- 役員退職金規程の決議
- 役員退職の事実
- 規程に基づく役員退職金支給の決定(株主総会の決議)
- 具体的な金額、いつまでに払うか、どのように払うかなどを決定
- 退職金の支給
- 源泉所得税・住民税の納付(支給した日の翌月10日までに)
- 退職所得の源泉徴収票の交付と提出(退職後1ヶ月以内)
役員退職金(役員退職慰労金)は一般的な退職金と同じく、法律上で支給が義務付けられているものではなく、細かな規定がありません。
よって、各社で比較的自由な制度設計が可能ですが、支給には「定款もしくは株主総会で決議すること」が求められます。
役員退職金は株主総会の決議や議事録の作成が必要
役員退職金(役員退職慰労金)は定款でその定めがあれば、原則、支給が可能です。しかし定款で役員退職金(役員退職慰労金)を定めるのは難しいことから、多くの会社では株主総会の決議を持って、支給条件を満たしています。
株主総会では支給の可否だけでなく、支給額や支給時期、支給方法など、役員退職金(役員退職慰労金)に関わるさまざまな内容を取り決めます。
ただし、具体的な支給額は、株主総会では開示しないのが一般的です。個人の報酬額が多くの人に公になることは、望ましくないためです。
株主総会では支給の基準を開示するまでにし、最終的な金額決定は取締役会に委任されています。
なお、会社法上、株主総会や取締役会においては議事録の作成が必要です。
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会社役員の退職金(役員退職慰労金)は非常にまとまった金額になりやすいことから、原資の計画的な準備が必要不可欠でしょう。
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まとめ
会社役員の退職金(役員退職慰労金)は、会社ごとに自由に定められます。ただし常識的な範囲を超えた退職金は税務調査の対象となりやすいため、功績倍率法や1年あたり平均額法を用いて目安額を算定するのが一般的でしょう。