退職金制度特集

建設業の一般的な退職金制度の相場について解説

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建設業はほかの産業に比べ、退職金制度の導入率が高いといわれています。しかし、どのような制度を導入しているかは企業によって異なり、受け取り額や受け取り可能なタイミングなどもそれぞれです。

そこで本記事では、建設業全体の退職金相場や、導入率の高い制度内容についてまとめました。

こちらを一読すれば、「勤続年数や最終学歴に応じたおおよその退職金額」に見当をつけられるほか、「自社や転職先の退職金制度の手厚さ」を見極められるようになるでしょう。

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建設業の退職金あり/なしの割合

従業者数が30~299人規模の建設会社を対象としたアンケートによると、退職金制度の導入率は87.1%(85社中74社が導入)でした。

中小企業における退職金制度の導入状況(参考資料より一部抜粋)

退職金あり 退職金なし
産業全体 71.5% 28.3%
建設業 87.1% 12.9%
製造業 88.3% 11.3%
情報通信業 64.0% 36.0%
運輸業、郵便業 60.0% 38.2%
金融業、保険業 76.7% 23.3%
不動産業、物品賃貸業 70.0% 30.0%

※産業全体の割合には、10~99人規模の会社を対象としたサービス業や金融業など、上表にまとめていない産業も含んでいます。全体のデータは参考としたPDFファイルをご覧ください。

産業全体における退職金制度の導入率71.5%と比較すると、建設業は導入率が高いと分かります。

建設業は慢性的な人材不足を抱えているため、福利厚生の充実によって人材確保に取り組む企業が多いのでしょう。国土交通省が「建設業退職金共済制度」という建設業界を対象とした退職金制度の普及を長らく推進してきたという背景もあります。

しかし、建設業退職金共済制度の普及が進む一方で、正しく運用されていないケースがあることが建設業退職金共済制度の課題として挙げられています。

国からの対策は取られていますが、一労働者としても自職場の退職金制度をよく理解しておく必要があるでしょう。

建設業退職金共済制度は、建設現場の従業者を対象とした共済制度ですが、それ以外の退職金制度を導入している建設会社もあります。(「建退共制度に関する実態調査」によると、建設業退職金共済制度の導入率は2015年時点で一次下請企業は46.2%、二次以下下請企業は37.1%です)

非正規雇用の場合は退職金が支給されない可能性が高い

雇用形態ごとの退職金支給・適用率

雇用形態 退職金の支給・適用率
正社員・正職員 72.1%
有期雇用・フルタイム 14.8%
有期雇用・パートタイム 7.0%
無期雇用・パートタイム 12.1%

退職金制度は一般的に正規雇用者を対象としているものが多く、非正規雇用者(契約社員、派遣社員、アルバイト、パートなど)は対象外のケースがほとんどです。

企業2万社(全産業・常用の従業者数が10万人以上)におこなった2021年の調査によると、フルタイムの有期雇用者であっても退職金を支給しているのは14.8%の企業しかありませんでした。

建設業の退職金の相場シミュレーション

ここでは、建設業の退職金相場をいくつかのパターン別にまとめました。ご自分の状況に近いものを参考に、シミュレーションしてみてください。

なお、これらの相場は東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)第8表 モデル退職金」に基づいています。

高卒者・自己都合退職の場合

  • 勤続年数5年×年齢23歳:35.4万円(全産業における同モデル相場:35.8万円)
  • 勤続年数10年×年齢28歳:88.3万円(90.7万円)
  • 勤続年数15年×年齢33歳:174万円(170.5万円)
  • 勤続年数20年×年齢38歳:285万円(272.9万円)
  • 勤続年数25年×年齢43歳:444.4万円(397.1万円)
  • 勤続年数30年×年齢48歳:586.6万円(532.5万円)
  • 勤続年数35年×年齢48歳:797万円(672.5万円)

高卒者・会社都合退職の場合

  • 勤続年数5年×年齢23歳:49.6万円(全産業における同モデル相場:48.9万円)
  • 勤続年数10年×年齢28歳:121.3万円(122.3万円)
  • 勤続年数15年×年齢33歳:228.8万円(214.8万円)
  • 勤続年数20年×年齢38歳:351.7万円(328.4万円)
  • 勤続年数25年×年齢43歳:524万円(465.6万円)
  • 勤続年数30年×年齢48歳:678.7万円(604.6万円)
  • 勤続年数35年×年齢53歳:859.1万円(757.5万円)
  • 定年:1220.3万円(994万円)

建設業における高卒者の退職金相場は、全産業に比べると全体的にやや高めです。特に勤続年数が上がるほど、全体相場との差が開きます。

勤続年数が20年のとき自己都合退職では全産業よりも12万円ほど、会社都合退職では全産業よりも23万円ほど相場が高いシミュレーション結果です。

大卒者・自己都合退職の場合

  • 勤続年数5年×年齢27歳:45.9万円(全産業における同モデル相場:47万円)
  • 勤続年数10年×年齢32歳:120万円(112.1万円)
  • 勤続年数15年×年齢37歳:229.8万円(212.9万円)
  • 勤続年数20年×年齢42歳:376.5万円(343.1万円)
  • 勤続年数25年×年齢47歳:550.1万円(490.6万円)
  • 勤続年数30年×年齢52歳:709.2万円(653.6万円)

大卒者・会社都合退職の場合

  • 勤続年数5年×年齢27歳:67.1万円(64.1万円)
  • 勤続年数10年×年齢32歳:166.7万円(149.8万円)
  • 勤続年数15年×年齢37歳:298.1万円(265.8万円)
  • 勤続年数20年×年齢42歳:463.1万円(414.7万円)
  • 勤続年数25年×年齢47歳:648.2万円(578.2万円)
  • 勤続年数30年×年齢52歳:842.5万円(754.2万円)
  • 定年:1220.3万円(1091.8万円)

建設業における大卒者の退職金相場も同様、全産業に比べると全体的にやや高めです。

勤続年数が20年のとき、自己都合退職では全産業よりも33万円ほど、会社都合退職では全産業よりも48万円ほど高い金額です。

さらに、定年まで勤めた場合は会社都合での退職となり、全産業よりも128万円ほど全産業よりも高い金額です。

建設業における退職金制度の主な形態

建設業で導入される退職金制度は、主に以下の3つです。

  • 企業独自の年金・退職金制度
  • 中小企業退職金共済制度(中退共)
  • 建設業退職金共済制度(建退共)

それぞれの特徴は、以下で解説します。各退職金制度の理解を深めれば、自職場の制度の仕組みを把握できるだけでなく、転職先を探す際にも役立てられるでしょう。

企業独自の年金・退職金制度

企業が自助努力(内部保留や生命保険など)によって、独自の年金・退職金制度を設計する形態です。

退職金に関する細かな取り決めは法律にないため、支給要件や給付額は企業が自由に定めています。競合他社よりも優位性を持たせようと独自性の高い制度を設ける企業もあるので、詳細は自職場の就業規則を確認しましょう。

受け取り方法にこれといった定めはありませんが、一般的には退職時に退職一時金として受け取るケースが多いでしょう。

中小企業退職金共済制度(中退共)

中小企業退職金共済制度とは、厚生労働省が管轄する「独立行政法人 勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共)」が運営する制度です。

中小企業向けの制度設計であり、建設業の場合は常用の従業者数が300人以下もしくは資本金・出資金が3億円以下の企業が導入できます。

中小企業退職金共済制度は、非正規雇用者も加入対象です。また加入月数が43月(3年7ヵ月)以上になると、基本退職金に付加退職金(運用利息)が加算されます。長期加入者ほど多くの退職金を受け取れる設計です。

受け取り方法は、退職一時金または分割払い(年金払い)です。ただし分割払いは、年齢や給付額の要件があります。

退職金を分割払いするための要件

支給方法 要件
全額分割払い
  • 退職日の時点で60歳以上である
  • (5年分割払いの場合)退職金が80万円以上である
  • (10年分割払いの場合)退職金が150万円以上である
一部分割払い(一時金+分割)
  • 退職日の時点で60歳以上である
  • (5年分割払いの場合)退職金が100万円以上であり、分割払いの割合が80万円以上、一時金払いの割合が20万円以上である
  • (10年分割払いの場合)退職金が170万円以上であり、分割払いの割合が150万円以上、一時金払いの割合が20万円以上である

60歳未満で退職する場合には、原則、一時金払いですが、加入月数が12月未満の場合、支給対象外となるのでご注意ください。

中小企業退職金共済制度には、通算制度が設けられています。転職先に中小企業退職金共済制度(特定退職金共済制度含む)が導入されているようであれば、これまでの加入月数を保ったまま転職先の制度に加入(※)できます。

※通算制度を利用するには、退職金の請求をせずに退職後3年以内に通算の申し込みをする必要があります。

建設業退職金共済制度(建退共)

建設業退職金共済制度とは、厚生労働省が管轄する「独立行政法人 勤労者退職金共済機構・建設業退職金共済事業本部」が運営する制度です。

建設業に限定した制度であり、建設現場の従業者を対象としています。非正規雇用者や兼業している方のほか、一人親方であっても任意組合に加入しているのであれば加入できます。

建設業退職金共済制度は、加入期間の加算が実際の月数ではなく、労働日数21日を1月と換算(※)するのが特徴です。加入月数が24月以上に達すると、退職金の支給対象になります。

(※)1日の単位は、8時間が基本。深夜労働は翌日4時間超の場合、8時間に満たなくても1日とみなされます。

退職金の有無を確認するには?

自職場に退職金が導入されているか確認したいときには、就業規則を一読するか、担当部署に確認するのがよいでしょう。各種方法の詳細は、以下をご一読ください。

自職場の就業規則を確認する

退職金制度の詳細は、必ず就業規則に記載されています。退職金制度の導入企業は、就業規則に以下を記載するように法律で義務付けられているためです。

  • 退職金制度が適用される従業者の範囲
  • 支給要件
  • 金額の計算方法や支払い方法
  • 支払い時期

就業規則は原則、従業者が確認しやすい場所に掲示されています。作業場や事業所内に冊子として置かれているほか、従業者全員が確認できるサーバーにデータファイルとして共有されているケースもあるでしょう。

総務など担当部署に確認する

退職時期や理由が特殊であるケースをはじめ、就業規則だけでは判断がつかないことがある場合には、担当部署に確認するとよいでしょう。

ただし、退職金制度について直接確認した場合、トラブルにつながる可能性はゼロではありません。たとえば退職金制度を確認することで辞職の意向があると捉えられてしまい人手不足のタイミングでは、引き止めに合うこともあるでしょう。

「今後の資産形成に備えて確認しておきたい」と別の理由を添えてたずねたり、ファイナンシャルプランナーや弁護士など外部に相談することも検討しましょう。

建設業の退職金に関する注意点

最後に、退職金を受け取る際の注意点を2つ解説します。

退職金が支給される日は事業者によって違う

退職金の支給日は、企業が自由に定められます。自職場の就業規則で規定を確認しましょう。

支給日の定めがない場合には労働基準法の賃金と同等の扱いになり、退職者の請求から7日以内に支払うことが義務づけられています。

退職金の支給日や賃金規定の日を過ぎても支払いがされない場合には、改めて会社に問い合わせるとよいでしょう。それでも未払いが続く場合には、労働基準監督署や社会保険労務士への相談を検討してみてください。

退職金には税金がかかる

退職金を受け取る際には、税金(所得税、住民税)がかかります。

ただし退職金を一時金払いで受け取る場合は、退職所得控除が受けられます。分割払い(年金払い)で受け取る場合には、公的年金等控除の対象です。

一時金払い時の退職所得控除は勤続年数に応じて控除額が定まりますが、勤続21年未満と以上で計算式がそれぞれ異なります。

  • 勤続年数21年未満の計算式…40万円×勤続年数(※最低控除額:80万円)
  • 勤続年数21年以上の計算式…800万円+70万円×(勤続年数-20)
  • 例1)勤続年数が1年の場合…40万円×1年=40万円(80万円控除が適用)
  • 例2)勤続年数が30年の場合…800万円+70万円×(30-20)=1,500万円

※参考:国税庁「退職金と税

分割払い時の公的年金等控除は、「受給者の年齢」「年金額」「所得額」に応じて定まります。

年齢の区分は65歳未満か65歳以上かの2ケースですが、そのほかの区分は細かく分けられています。ここでは一部のみを掲載しているので、詳細は国税庁のWebサイトでご確認ください。

受給者の年齢が65歳未満、年金を除いた所得額が1,000万円以下の場合(2020年分より)

公的年金等の収入額 控除額の計算に用いる式
60万円以下 ※全額控除
60万円超、130万円未満 年金額-60万円
130万円以上、410万円未満 年金額×0.75-27.5万円
410万円以上、770万円未満 年金額×0.85-68.5万円
770万円以上、1,000万円未満 年金額×0.95-145.5万円
1,000万円以上 年金額-195.5万円

受給者の年齢が65歳以上、年金を除いた所得額が1,000万円以下の場合(2020年分より)

公的年金等の収入額 控除額の計算に用いる式
110万円以下 ※全額控除
110万円超、330万円未満 年金額-110万円
330万円以上、410万円未満 年金額×0.75-27.5万円
410万円以上、770万円未満 年金額×0.85-68.5万円
770万円以上、1,000万円未満 年金額×0.95-145.5万円
1,000万円以上 年金額-195.5万円
  • 例1)65歳未満、公的年金等の収入120万円、そのほか所得なしの場合…120万円-60万円=60万円
  • 例2)65歳以上、公的年金等の収入500万円、そのほか所得なしの場合…500万円×0.85-68.5万円=356.5万円

※参考:国税庁「公的年金等の課税関係

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