株式会社ベター・プレイスは、「ビジネスを通じて、子育て世代と子どもたちが希望を持てる社会をつくる。」という企業理念のもと、人々が「お金の心配なく」「自分らしく働ける」社会を目指しています。
この度、6月28日から7月4日にかけてオンライン開催された「第10回住まい×介護×医療サミット」に登壇させていただき、弊社代表の森本が一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長 斉藤正行 氏と対談いたしました。
「コロナ禍における人材戦略」をテーマとして、斉藤理事長の実体験を踏まえた人材活用にあたって考えるべきことや、理念と経済の両立、介護事業にかける想いを語っていただきました。
介護事業者の方にとって、少しでもヒントになればと思い、セミナーレポートを記事にしております。
(2022年7月4日オンラインセミナーの講演内容を文字起こし、記事化したものです。)
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バランスよく「経済と道徳」を両立することが重要
森本:斉藤理事長、本日の基調講演ありがとうございました。人手不足が課題の介護業界で人材を確保するには「理念(どういう思いをもって会社を運営しているか)」と「どのような人物を求めているのか」を明確にするのが重要とおっしゃっていました。
実際に経営理念を血肉として、しっかりと現場や周囲に伝えられている介護の事業所はどれくらいあるのでしょうか?
斉藤:意外かもしれませんが、他の業界よりも介護の経営者の方々は理念に関しては、しっかりと落とし込んでいます。
一方で、経営者と現場は乖離しがちですが、介護業界は特にその傾向が強い面があるのも事実です。
介護現場の方たちは、福祉はお金儲けやビジネスではない、地域や社会のために働いているのだと考えていらっしゃる方がほとんどです。しかし経営者は経営と利益を考えますから、「思いの強い現場」と「経済を考えなくてはならない経営者」との断絶が起こりがちです。
ここを埋め合わせて離職率を少なくしていらっしゃる会社さんは、理念型の経営をしています。逆に経営理念が明確ではない、あるいは理念を伝えきれていない会社さんは、結果的に業界から撤退していくという印象はあります。
森本:介護の仕事はこれからマクロ的に増えていくと言われています。「儲かるから」という考えの経営者は退場を余儀なくされる時代になっているように感じます。
斉藤:そうですね、10年くらい前からマーケットは拡大し、異業種からの参入も非常に増えました。安易にマーケット拡大に乗って儲けようと考える方も確かにいます。しかし、たとえ入口がそうであっても、それでは人がついてこないことに気づきます。
私もさまざまな会社を見てきましたが、長く介護事業を継続している方は理念型の経営をしている印象が強いですね。
森本:介護の現場で働いていらっしゃる方は非常に思いが強く、利用者さんに少しでも良くしてあげたいという思いを持っていらっしゃる。ここで難しいと思うのは、いわゆる経済と道徳の両立です。
斉藤:理念は重要ですが、理念だけでは会社経営は成り立ちません。どちらかに偏りすぎてはいけないのです。介護業界を見渡すと、今の状況ではどちらかに偏っている、両極端の事業者さんが多いですね。
思いや理念があるところに人は集まります。しかしお金があるからこそ、質の高いサービスを提供できるし、教育や研修もできるし、福利厚生といった環境も整えることができる。せっかく人が集まっても、お金がなければ結果的に離れていってしまいます。
理念を実現するためには経済を回していくことも重要です。土台に理念があってこそですが、バランス良く「経済と道徳」を両立する経営が必要だということです。
経営の本質は「会社の理念」
森本:以前、斉藤さんが介護業界に入りたての頃、これまでとの違いに驚いたというエピソードをお話されていました。ぜひ、そのお話を皆さんにも聞いていただきたいです。
斉藤:そのエピソードは私にとっても非常に強く印象に残っていることなんです。
大学を出てから私は経営コンサルティングの仕事をしていました。2003年から介護業界に転身し、介護施設を立ち上げた時、職員さん達に集まってもらいお話をしたんです。
その時、私は理念については軽く触れただけで、すぐにお金の話をしてしまった。事業計画通りの数字を実現しなくてはいけないと滔々と語ってしまったのです。
あの時のスタッフさん達の顔が今も忘れられません。最初はポカンとしていて、そのうち怒りさえ感じられた。「私たちはお金や数字の計画でこの施設に集まってきたわけじゃない」と目で訴えてきて、あわてて数字の話はひっこめました。
この時に、思いや理念が介護の世界では特に重要なんだと実感しました。もっと言えば、介護だけでなく、最終的にはどんな会社でも理念経営にたどりつくんですね。介護事業を通じて、私は経営の本質により近づくことができたのかなと思います。
採用よりも「辞めさせない」「辞めたくない」環境づくりに注力すべき
森本:保育・介護・医療まで含めると700万人もの方が働かれている業界で、給与を上げていくことは重要です。しかし税金で運営されている以上、給与面での差別化というのは現実的には難しい状況です。
斉藤さんはたくさんの介護事業所を見てきたと思いますが、給与面や福利厚生面などでどのような施策や改善を行うべきでしょうか?
斉藤:理念が最優先ではあるけれど、その理念を実現するために手段としてお金は必要です。働いている職員さんにとっても同じで、思いだけでは生活できません。大変な環境の中で頑張って働いていらっしゃる、それに見合った給料をと願うのは当然のことです。
福祉の世界でお金のことばかりでは職員さん達も抵抗感を覚えるでしょうが、理念やサービスについて語った上でお金も大切だよねと話すと理解してもらえます。実際に、頑張っている職員さんこそ、対価をきちんと評価してほしいという気持ちは強いものです。
介護では職場改善を図っていかないとなりません。
① 評価制度の確立
② 評価制度に基づいた昇給の仕組み
③ 採用よりも「辞めさせない」環境づくり
処遇改善支援補助金や加算は、届け出さえすれば全ての法人がもらえます。
もらえる金額は決まっていますが、配分の仕方は事業者に委ねられています。そこで給与処遇について、評価が重要になります。
介護業界を見ていると、給料を一律にしがちなところがあります。資格を持っているなら資格手当をつけるとか、職能によって少し差をつけるとか、会社での評価制度を構築し、その制度に基づいた昇給の仕組みを作り上げること。きめ細かい評価の仕組みとそれに即した昇給制度が重要です。
加えて、採用以上に「採用した人材を辞めさせないこと」がポイントです。
介護事業者は人手が足りないからと、とにかく採用を優先しがちです。しかし、ひとり採用するのも、ひとりを辞めさせないのも同じことです。
ひとり職員を採用するにはお金と労力がいる。辞めさせないようにするには、多少の工夫とお金は必要でしょうが、間違いなく「採用」よりはお金もかかりません。介護事業者は、人材を辞めさせないための努力にもっと力を注ぐべきではないでしょうか。
たとえば職場環境を整える。福利厚生を充実させる。全ての人が満足する職場は作れませんが、自分たちが求めている人材が辞めないようにするための工夫をしていくのが大切です。
マネジメント人材の育成が職員の定着につながる
森本:人が辞めない組織づくりはおっしゃる通り、たいへん重要ですね。介護業界では職場における人間関係のトラブルが多い。介護の世界だからこそ濃密な人間関係で悩まれている。この辺りについて、斉藤さんはどう解決していけば、人材の定着につながるとお考えですか?
斉藤:もっとも本質的で難しいお話ですね。複合的にさまざまな対策をとらないとなりません。評価の仕組み、教育や研修の仕組み、サービスができる環境づくり、福利厚生や退職金制度を整えること。優先順位をつけて、やっていくしかありません。
しかし、どんなに環境を整えても、人間関係のいざこざでやめてしまうことは実際にあるでしょう。
答えはひとつではありませんが、私はマネジメント人材の育成に力を入れるべきだと思っています。私自身、介護の経営をしてきましたが、マネジメント層の育成に特に力を入れてきました。何千人規模の会社になってからも、施設長とか、管理者層の研修だけは、すべて私が直接行なってきました。
現場でいざこざがあった時、すぐに辞めてしまう人は一定数いますが、多くはいったん自分の中で処理しようとしたり、周囲に相談したりします。トラブルになっている双方の意見を聞き、上長がうまく差配して、お互いが納得感のある対応をすることです。
人と人の摩擦をうまくカバーできるマネジメント層の育成をすれば、人間関係によって辞める人は減るのではないでしょうか。
介護現場の方達に「資産形成」による未来への安心を提供したい
森本:斉藤さんの介護業界への貢献は非常に大きなものですが、このようにお話をしていただけて本当に嬉しく思います。
斉藤:政策などのお話をさせていただくことが多い中、介護業界における「ひとりひとりとの対話」「現場での積み重ね」から得たことや経験をお話できる機会を今回いただくことができて、よかったです。
私は、森本社長とベター・プレイスの取り組みにたいへん共感しています。思いを大切にしていきたい、しかし生活のための経済も大切で両立させなくてはいけないということ。この経済の部分ですね。
介護業界では、寿退社は女性ではなく男性に多いと一時期よく言われていました。介護職では家族を養っていかないから、結婚が決まると転職を考えるわけです。介護に思いもあって続けたいが、生活を考えると別の職に就かざるを得ない。これをなんとかしたいと私も思ってきましたし、それはまさに森本社長が取り組んでいらっしゃることだと思う。
森本社長が取り組んでいらっしゃること、直接的な給与の改善には限界があるとしても、きちんと資産形成ができる仕組みを作ろうという考え方は素晴らしいと思います。これは政府が新しい資本主義で中間層の所得や資産を倍増させていこうという計画ともリンクしています。
私がぜひ森本社長に伺いたいのは、どんな思いをもってこうしたことをやっているのか、という点です。
森本:弊社のビジョンは「やさしい人がやさしいままでいられる世界を作る」です。
私の弟は介護福祉士をしており、奥さんは保育士さんです。やさしさに満ち、誇りを持って仕事をしていますが世帯年収はささやかなものであり、思いだけで続けるのは苦しいところです。先立つものがないと、安心して仕事に取り組めません。
私たちは福祉業界向けの税制優遇の仕組みを活用しながら資産形成していける企業年金制度を提供しています。
なぜ、年金なのか。厚生労働省の調査によると、若者が働くことに対する不安でもっとも多かったのが「老後の年金に対する不安」なんです。充分な給与を得られないのではという不安と並んで、老後の暮らし・年金に不安がある。だから安心して長く仕事ができないという課題につながっていく。
私たちが持っている金融ノウハウを提供させていただき、給与から積立できる年金基金の仕組み、さらに税制優遇を受けながら複利で運用していける資産形成サービスが提供できれば、少しでも働く方々の安心につながるのではないかと思っています。それは、会社の理念とも合致しています。
基金を作って4年目ですが、3万人を超える方々にご利用いただき、現在も増えているところです。斉藤さんをはじめとして、経営や金融の知識がある方々からご理解と共感をいただき、はぐくみ企業年金はいいよねと勧めていただいていることには本当に感謝しております。
はぐくみ企業年金のサービスを利用し生活や老後の基盤となる資産形成を行なっていただきたいというのが私たちの願いです。福祉に携わる方々がまず自らの生活設計に安心し、そして自信をもって「自分たちはいい仕事をしているんだ」と思ってもらえたらそれに勝るものはありません。
斉藤:立場と役割は違いますが、今、森本社長のお話を聞いて、同じ思いで取り組んでいるのだなと感じました。今まさに求められている「介護職員たちの資産形成になるサービス」を提供していらっしゃる。さらには、金融という事業でありながら強い理念と思いをもって取り組んでいらっしゃる。一緒になっていろいろなことをやっていけるのではないかと改めてお話を伺いながら思いました。
森本:全国介護事業者連盟の、介護に携わる方々が一致団結し業界全体の地位向上、そこで働く人が誇りをもって働ける環境を作っていこうという取り組みには大いに賛同しております。本日はお時間をいただきありがとうございました。
講演者プロフィール
一般社団法人 全国介護事業者連盟
理事長 斉藤正行 氏
■略歴
1978 年奈良県生まれ、2000 年立命館大学経営学部卒業
2000 年 4 月 飲食業のコンサルティングや事業再生を手掛ける株式会社ベンチャーリンクに就職
2003 年 5 月 メディカル・ケア・サービス株式会社に入社
2005 年 8 月 取締役運営事業本部長に就任
2010 年 5 月 株式会社日本介護福祉グループへ入社
2010 年 7月 取締役副社長に就任
2010 年 12 月 一般社団法人日本介護ベンチャー協会を設立、代表理事に就任
2013 年 8 月 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立、代表取締役に就任
2018 年 2 月 株式会社日本介護総研 取締役会長に就任
2018 年 6 月 一般社団法人全国介護事業者連盟 専務理事に就任
2020 年 6 月 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長就任
2020 年 8 月 一般社団法人日本デイサービス協会 名誉顧問就任
■主な役職一覧
・ 一般社団法人日本介護協会(介護甲子園) 副理事長
・ 一般社団法人日本デイサービス協会 理事・事務局長
・ 一般社団法人日本在宅介護協会東京支部 監事
・ 一般社団法人全日本業界活性化団体連合会 専務理事
その他、介護関連企業・団体の要職を歴任