経営トップインタビュー

未来の可能性にかける仕事が保育。「やってみよう!」を繰り返し、保育現場を良い方向へ

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認定こども園 くるみこども園
園長 戸巻 聖様
https://kurumi-kodomoen.jp/kurumi/

このコーナーでは、はぐくみ企業年金を応援いただいている企業/組織トップに、さまざまな観点からお話を伺います。めまぐるしく変化する時代にトップリーダーは何を考え、どう対応し、未来への道を切り拓こうとしているのか。
初回は、はぐくみ企業年金を推奨認定いただいている認定こども園連絡協議会の会長であり、くるみこども園の園長でもある戸巻聖様に、保育において大事にされていること、変化する日本とこれからの保育、そして園の経営において重要なことは何かを伺いました。

「やってみよう!」変わっていくことで園も子どもも成長していく

はぐくみ企業年金Navi編集部(以下、編集部):戸巻会長、今日はよろしくお願いいたします。会長は認定こども園を運営していらっしゃいますが、「学園の理念」を思い切って大きく変えたと伺いました。

戸巻様:はい、これまでは「情熱と貢献」といった硬い言葉で表記されていたので、もっとわかりやすく「やってみよう!」を前面に押し出しました。言葉通り「やってみよう!」これが園の理念です。
とにかく「とことん、やってみよう」とみんなに言っています。これをやったら怒られるとか、こんなことをしてはいけないとかを気にしてほしくない、それよりも「やってみよう!」です。
園の理念をわかりやすい言葉にしたことも、ホームページの見た目を変えたのも、これまでとは違う提案をしたかったからです。僕が率先して、いいなと思ったアイデアを実践してみせることで「あ、やってみていいんだ」とわかってもらえる。トップがやってみせることが大事です。
変化を求めるなら、まず園長がブレイクスルーしないと変わらないですから。

編集部:素晴らしいですね。しかし、長年の運営で作られた園の習慣とか雰囲気を変えるというのは苦労も多いのではないでしょうか。

戸巻様:「先輩にこうやりなさいと言われている」「前からこのやり方だから」というのは、当園の職員もよく口にしていました。先輩たちを否定するつもりも批判するつもりも毛頭ないですが、それは本当に「子どもたちのため、保護者のため、自分たちの仕事のためになっているのか」。ひとつずつ疑い、検証していくことが必要です。
ところが保育業界は、検証という作業があまり得意ではありません。慣例を疑いもなく、続けてしまうところがあります。「ずっと昔からやっているから」ではなく、やっていることを検証していくことで、変化していけるのです。

編集部:そうした行動によって、お子さま方も変化してきましたか?

戸巻様:先生の意識が変われば、子どもたちも変わります。自分たちの声をちゃんと聞いてくれて、一緒に考えてくれて行動してくれる。「やりたいこと=夢」を叶えてくれる先生がそばにいると、子どもたちはどんどん思いやイメージを言葉にして伝えようとしてきます。
「やってみたい!」と子どもが口に出して言えることはとても大切です。ご家庭では、わがままとされることもあるようですが、園では「いいね!やってみよう!」と大いに賛同しています。
それをもっと根付かせるためには、やはり保護者や地域の方を巻き込んでいかなくてはなりません。
今、当園では「1日保育士体験」を行っています。保護者の方が朝から園に来て、先生と一緒に保育を体験します。大好評で予約がすぐにうまるのですが、とにかく皆さん1日でヘロヘロになっている(笑)。
ご自身の目で園の生活を見て、「やってみよう!」を実践している場を知り、先生の苦労も分かち合うことで、保護者さんの園に対する理解、子どもたちの生活への理解が非常に深まりました。1日保育体験を通じて、先生だけでなく、保護者の方にも、園の方針や思いが少しずつ浸透していると実感しています。

保育業界を取り巻く環境の変化

編集部:時代は大きく変化しています。戸巻会長は保育業界を取り巻く変化をどう感じていらっしゃいますか?

戸巻様:僕が幼稚園の先生になったのは25年ほど前です。当時の子どもと今の子どもを比べると、今の子どもは少し幼いところもあるなと感じますね。
お子さんを取り巻く環境も大きく変わりました。昔の子ども達は、物を調べる時に答えを見つけるには図鑑を広げるか、大人の知恵に頼るしかなかった。一方で今の子たちはインターネットで簡単に調べることができる。この「差」が何につながるのかは正直わからないですが、「差」は大きいと感じています。
それに、今はスマホで手軽にゲームができます。僕は「スマホやゲームは大人になっていくらでもできる、その時にやればいいよ。でも虫を探したり土を触ったりするのは今だから思いっきりできるんだよ」とよく子どもたちに言っています。どろんこになって遊べるのは、今だけですから。

編集部:本当にそうですね。先生方も25年前とは違いますか?

戸巻様:先生の立場も今と昔では大きく違います。当時は競争が激しくて、僕もなかなか採用されなかった。だから、採用されてからも「いつでも代わりはいる」、期待に応えなくてはという強い思いがありました。現在は保育士を確保するのが大変な時代ですからね。今はもうちょっと緩やかな感覚で子どもたちの保育をしています。
そして保護者の方も時代と共に変わってきています。昔はスマホやiPadもなく、相談するツールがなかったから、直接、先生にたくさん質問をしていました。今は保護者の方たちも自分で調べて、インターネット上で問いかけて回答を求める。しかし、正しい情報かどうかを判断できないと、弊害も出てくるわけです。
他の子と自分の子を比較することが非常に増えている印象があります。情報が多い分、その「情報とわが子」を比較してしまうから、子育てが辛くなってしまうんですね。もっと肩の力を抜いて、気楽にいろいろな人に相談して、大丈夫なんだと安心してほしいです。

AI時代を生き抜く力を育む!「3つのねがい」

編集部:時代の変化でいうと、これからはAIも台頭し、さらに大きな波が押し寄せてくると言われています。このような環境下で保育の現場はどう対応するべきとお考えでしょうか?

戸巻様:これからAIが台頭してきたら、たとえば計算のようなものは絶対に勝てないでしょう。でも僕ら人間は生きていて、心のあるものとしての判断基準がある。そこを小さいうちから、やはり厚く、そして広く育てていきたい。そうでないとAIに飲み込まれてしまう。
ベター・プレイスは「やさしい人がやさしいままでいられる社会」を理念として掲げていますね。大人になってから「思いやり」や「やさしさ」を意識して新たに持つのは難しい。小さいうちのさまざまな機会を通じて、自然とやさしさや相手に対する思いやりが身につくものです。その機会をたくさん作ってあげるのが、僕たちの仕事です。
将来、AIがもっと進化して便利な世の中になったとしても、「やさしさや思いやり」をもって人に対することができる人間の存在意義は大きな意味を持つと思います。

編集部:「やさしい気持ち」や「思いやり」は園の教育方針であり、保育の柱となっているのですね。

戸巻様:園には3つのねがいがあります。

・人の気持ちがわかる「思いやり」
・人を思いやる「やさしい気持ち」
・人を助けることができる「つよいこころ」

「思いやり」も、「やさしい気持ち」も、そして「つよいこころ」も、AIには持てない、人間だからこそ持てる感情です。それらを園での原体験や、お友達や先生と交流する中で大きく育みたいという願いが込められています。

編集部:人間関係の中で育つものが大事ということでしょうか。

戸巻様:そうです。園の理念をもう少し詳しくお話しましょう。実はさっきの「やってみよう」には後の言葉があって、やってみようの後は「できる、できた!」が続きます。さらに「わかった!」の言葉、3つで1セットなのです。
ところが、今の子どもたちはやってみようとしない。自分でやっていないけどYouTubeで見て「見たことあるもん」で満足してしまっている。それは、「わかった」にはつながらない。見て知っただけです。
先日、園で飯ごう炊飯をしたのですが、子どもたちは火の起こし方を「Youtubeで見たからできる」といいます。でも実際にやってみたら、見たとおりにはいきません。そして火に近づけば熱く、気をつけないと火傷もします。実際に「あちっ」となった子もいます。そうやって体験して、煙のあるところには近づかない、火は危険なものでもあるのだと体験から「わかった」ことが重要です。
そもそも教える側の先生方も、「インターネットで調べたからわかっている」と思いがちです。でも、やはり実際にやってみたら違うことはたくさんあるわけです。
先生も体験して覚える。原体験を積み重ねるのが大事です。だからできる限り本物の体験を用意するのが、今の時代はより大切なのではないでしょうか。
大きなことでなくても、原体験となる「体験」は工夫すればいろいろできるはずです。その体験が子どもにとって将来大きな財産になると思います。

資金の余裕を捻出し「先生と子どもたちに還元する」のが運営の基本

編集部:保育を取り巻く環境も非常に厳しいと伺っています。子どもが減って、日本の経済も落ち込む中、園の運営についてどうお考えですか?

戸巻様:少子化になり、日本の経済状況も深刻だと言うのは簡単です。僕ら保育現場は、目の前の子どもたちに期待するしかない。今、目の前にいる彼らが将来を必ず良くしてくれるだろうと思って、いろいろなことをやっているのです。
最初の話に戻りますが、ずっと同じことをしていても変わらない。やってみたいことを「それは無理だね」ではなくて、「やってみよう!」と考える。夢じゃない、やればできるんだと、子どもたちがその気持を持てるように育てることが大事です。
少子化を解消し、GDPを上げて、世界的な学力の低下を解消していくのは生半可なパワーでは無理です。でも、きっとやってくれるだろうと信じて、子どもたちを育てる。そんなの「こども園のひとつががんばったところで変わらない」とも言われるけど、それでも、やらないより、やったほうがいいに決まっています。
ここで育った子どもの誰かが政治家になって「日本の国民の皆さん、やってみよう!」と言ってくれたら、もう僕は号泣しちゃうと思います。
そういう「可能性にかける仕事」が保育なんですよ。

編集部:子どもたちが将来、日本を立て直してくれる可能性にかける仕事というのは素晴らしいですね。それを支えるのが資金という面もあると思うのですが、いかがでしょうか。

戸巻様:綺麗事ではない話をすれば、さまざまな体験を子どもたちにさせようとしたら、当然ながらお金がかかります。国の支援はそこまで行き届くものではない。
法人の持ち出しを抑えるとか、なんとかがんばって余裕のあるお金を作り出して、それを体験するための費用に当てていくしかありません。
はぐくみ企業年金のようなものを活用して、それで少しでも余裕ができたお金で子どもたちの体験を下支えしていけるといいなと思っています。
それから、やはり先生たちのお給料は高いほうがいい。子どもたちにより良い体験をさせてあげて、先生も原体験を増やせる保育をして、そしてお給料も良くなってほしい。
さらに先生方の手元にお金が残り、将来の安定を得られるようなシステムを提供することができれば、安心して仕事に向き合っていけるはずです。そういう意味で「はぐくみ企業年金の存在」は大きいと思っています。

編集部:ありがとうございます。園経営のなかでこれからやってみたいと考えていることはありますか?

戸巻様:少し前に、子どもたちを熱気球に乗せるイベントを行いました。ヘリコプターなんかも体験させたいなと思っています。ヘリに乗る機会なんて、ほとんどないでしょう。これも実は僕が狙っているひとつの体験です。それで「ヘリコプターのパイロットになりたい」と言う子が出てきてくれたら嬉しいし、子どもたちが親になったとき「小さい時に熱気球に乗った、ヘリコプターに乗った、あれは楽しかったな」と思い、わが子にも同じようにいろいろな体験をさせてあげようと思ってくれたら、さらにさらに、僕は嬉しいです。
家族でできる体験は、家族でしていただく。園という単位だからこそできることもあるから、そこに注力していきたいと思っています。そして、下支えする資金面で、「はぐくみ企業年金」が力を発揮してくれたらと思います。

編集部:子どもたちが原体験を経験することに、私たちがお役に立てるなら、ほんとうに嬉しいです。

戸巻様:ベター・プレイスに、そういう支援があったら本当にいいと思います。熱気球の話でいうと、どこかで「うちもやってみよう」と思ったら、ベター・プレイスに聞いたら、体験したことがある先生と繋げてくれる。そういうネットワークで、子どもたちに新しい体験や環境を提供することができるかもしれないですからね。
あとは、やはり、先生方のやる気に繋がり、将来への不安を解消できる資金形成を提供してあげられることは大きいです。同時に法人としても若干、支出を抑えることができる。その分を子どもの体験や先生方に還元していきたいです。
お金を生み出して、それを子どもと先生に還元する。保育は儲けようという気持ちではやっていけません。別の言葉で表現するならば、子どもの成長チャンスに投資していると僕は考えています。

編集部:園を運営するのは、本当に大変なことなのだとお話を伺って感じました。

戸巻様:そうですよ、言葉は悪いけれど、すごいギャンブルです。こういうふうに育ててこの子がどう育つかなんて責任も取れないし確証もない。それでも、やります、やってみよう!で、必ずいいことに繋がると言い切って保育をしていくのです。
子どもたち、保護者、先生、園に関わるみんなが「楽しかった、嬉しかった」「またやりたい」「よしやろうぜ!」と進んでいく。皆さんのご指摘やご意見をいただきながら、「やってみよう!」を繰り返していく中で保育現場が良い方向に進んでいくと僕は信じています。

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