万が一のときに迅速な借り入れが可能な中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、いつでも簡単な手続きで解約が可能です。
しかし、解約のタイミングを誤ると、解約手当金(解約返戻金)の受け取りにより、翌年度の税負担が例年よりも大幅に増え、経営を圧迫する恐れがあります。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、綿密に計画を立てたうえで解約するのが無難でしょう。
本記事では、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約前に確認すべき注意点を詳しく解説します。
おすすめの解約タイミングや出口戦略も具体的にまとめているので、解約を検討中の経営層の方やこれから共済への加入を検討している経営層の方もぜひご一読ください。
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目次
【おさらい】中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは、「取引先の倒産によって起こる連鎖倒産から中小企業を助ける」ために生まれた共済制度です。
取引先が倒産した際、共済契約者は無担保・無保証人・無利子ですぐに被害額もしくは掛金総額の10倍(どちらかより少ない額)の借り入れができます。
また、取引先の倒産がなくても、無担保・無保証人で解約手当金の95%までの借り入れに対応しています。
このように中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は万が一のときの備えとして、活用しやすい制度です。
しかし、解約手当金(解約返戻金)は最大でも掛金相当額であることから、資産運用向きではありません。
経営が安定し始め、さらなる事業拡大やそれに伴う福利厚生の拡充などを考えたとき、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約を検討するケースは少なくないでしょう。
制度の概要やメリット・デメリットについてはこちらの記事も参照ください。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)を解約する前に確認すべきこと
ここでは、解約前に最低限確認しておきたい3つの注意点を解説します。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は、いつでも解約可能な制度です。
ただし、解約に伴って「手当金」が支給されることから、かかる税金のことを含め解約のタイミングは吟味する必要があるでしょう。
【注意点①】解約はいつでもできるが、納付期間や解約理由で「返戻率」が変わる
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約は、以下いずれも認められています。
- 任意解約(契約者都合の解約)
- 法人の解散・破産による解約
- 個人事業主の死亡による解約
- 事業の全部譲渡や法人分割、法人化などによる解約
任意解約が認められていることから、解約は原則、いつでも可能です。ただし解約手当金(解約返戻金)の返戻率は、掛金の納付期間や解約理由で変わります。
たとえば納付期間が12ヵ月未満の場合は、いずれの解約理由であっても手当金は0円(掛け捨て)です。そのほか返戻率の詳細は、後述します。
【注意点②】解約手当金(解約返戻金)は課税対象になる
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約手当金(解約返戻金)は、益金もしくは事業所得の扱いになり、課税対象です。
さらに受け取り方は「一時金のみ」であるため、翌年の法人税等が大幅に加算される恐れがあります。
倒産防止共済の加入期間 | 倒産防止共済を解約する場合 | |
---|---|---|
掛金 | 損金対象になる | ― |
解約手当金 | ― | 課税対象になる |
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の掛金は全額損金として計上できるので、課税の繰延効果(内部保留課税で経営が圧迫されるのを防止)を期待して契約しているケースもあるでしょう。
しかし、解約時に手当金として掛金が戻ってきたときには課税対象になってしまいます。
つまり、「単に税金を翌年以降に繰り延べているだけである」ことは、留意しておかなくてはいけません。
【注意点③】予め「出口戦略」や「解約のタイミング」を考えておく
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約は、なるべく計画的にするのが理想です。
そのためには、自社にとって妥当な返戻率になる解約のタイミング(必ずしも返戻率100%の時期が最適ではない)を狙うだけでは足りないでしょう。
解約手当金(解約返戻金)を受け取ったとしても、税務上、大幅に利益が増えないようにする出口戦略も検討する必要があります。
たとえば、「解約手当金(解約返戻金)を受け取る時期を役員退職金(役員退職慰労金)の支給時期に合わせる」といった方法です。
【注意点④】一度解約して再加入した場合、一定期間、税金の優遇措置が適用されなくなる
2024年10月1日以降に解約後、再び加入した場合、解約日から2年の間に支払う掛金については、必要経費または損金として計上できなくなります。
参照元:共済サポート navi
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約手当金
ここでは中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約手当金(解約返戻金)について、返戻率をはじめとした仕組みを詳しく解説します。
自社にとって妥当な返戻率になる解約のタイミングを模索する際にお役立てください。
解約手当金(解約返戻金)の返戻率はどのくらいか?
解約手当金(解約返戻金)の返戻率は、「掛金の納付期間」と「解約理由」に応じて変動します。
返本率を調べる際には、下表と照らし合わせてみてください。
掛金納付月数 | 解約理由 | ||
---|---|---|---|
任意解約 | みなし解約 | 機構解約 | |
1か月~11か月 | 0% | 0% | 0% |
12か月~23か月 | 80% | 85% | 75% |
24か月~29か月 | 85% | 90% | 80% |
30か月~35か月 | 90% | 95% | 85% |
36か月~39か月 | 95% | 100% | 90% |
40か月以上 | 100% | 100% | 95% |
掛金納付期間と解約理由によって元本割れに注意
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)では、掛金納付期間や解約理由によっては元本割れを起こします。
任意解約の場合は、掛金納付月数が12ヵ月を超えた時点で返戻率は80%です。掛金納付月数が増えるほど返戻率は上がりますが、40ヵ月が最大です。
40ヵ月以上はすべて100%となり、掛金の全額が解約手当金(解約返戻金)として戻ってきます。(※最大は掛金限度額の800万円)
12ヵ月未満はいずれの解約理由でも返戻率が0%となり掛け捨てになってしまいますが、掛金総額や経営状況によってはそのほうが適切なこともあるでしょう。
掛金総額が増えるほど綿密な出口戦略が必要になるので、「自社に中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)は合っていなかった」と早い段階で気付いた場合には、早めの解約が功を成すこともあります。
3種類に分類される解約理由
返戻率の算定に使われる解約理由は、「任意解約」「みなし解約」「機構解約」の3パターンに分類されます。
任意解約
任意解約とは、共済契約者の都合による解約全般(みなし解約には含まれないもの)を指します。
みなし解約
みなし解約とは、個人事業主の死亡、法人の解散や分割に伴う解約のことです。
機構解約
機構解約とは、いわば強制解約です。たとえば12ヵ月分以上の掛金滞納または何らかの不正行為があった場合には、強制解約となります。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約手続き
解約手続きの流れについて、ここでは任意解約を例に解説します。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約手続きは必要書類が少なく、手順も複雑でないため、戸惑うことは少ないでしょう。
【ステップ①】必要書類を入手し、必要事項を記載する
まずは、解約手続きに必要な書類をすべてそろえましょう。
-
- 解約手当金の振込口座を確認できる通帳等の写し
- 解約手当金請求書
- 共済契約締結証書
必要書類は以上の3種です。
解約手当金の振込口座を確認できる通帳等の写し
金融機関名と支店名またそのコード、口座番号、口座名義が確認できる書類の写しが必要です。
通帳はWeb通帳でも構いません。そのほかでは当座勘定照合表でも可能です。
いずれも用意できない場合には金融機関での確認が必要になるので、コールセンター(050-5541-7171/平日AM9:00~PM5:00)または問い合わせフォームで問い合わせるとよいでしょう。
解約手当金請求書
解約手当金請求書は、WebサイトからPDFをプリントするか、問い合わせフォームやコールセンターから郵送を依頼できます。
共済契約締結証書
共済契約締結証書は、共済契約を結んだ際に中小機構から送付された書類です。
紛失した場合には、印鑑証明書の原本(発行から3ヵ月以内であること)を代用できます。
【ステップ②】窓口に提出する
書類の提出先は、登録取扱機関の窓口です。
登録取扱機関を失念した場合には、「共済契約締結証書」もしくは「掛金納付状況のお知らせ」で確認できます。
【ステップ③】解約手当金と書類を受け取る
解約手当金(解約返戻金)は、中小機構に解約手当金請求書が到着した日の翌日を起算日として、30営業日以内に支給されます。指定した振込口座を確認しましょう。
その後、中小機構から「振込通知書」が届いた時点で解約手続きは完了です。
「任意解約」以外の解約までの流れや手続きについて
任意解約ではない解約理由の手続きについては、中小機構のWebサイトでご確認ください。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の出口戦略と解約のタイミング
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約はいつでも簡単に済ませられますが、解約手当金(解約返戻金)の受け取りは翌年の法人税等に大きな影響を与える恐れがあります。
あらかじめ出口戦略や解約のタイミングを慎重に検討しておくのが無難でしょう。
経費計上による出口戦略が一般的
解約手当金(解約返戻金)は、全額が益金(個人事業主は事業所得)扱いです。手当金の受け取り年度にはそれを相殺するだけの経費を使うことで、翌年度の法人税等による経営圧迫を避けられるでしょう。
しかし、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約手当金(解約返戻金)は一時金としての受け取りにのみ対応しており、分割での受け取りができません。
経費計上による相殺を狙うのであれば、「退職金」や「大型または多数の設備投資」など、まとまった経費が必要になるタイミングを解約時期とするのがよいでしょう。
仮に、受取り年度に「退職金を計上した場合」と「しない場合」
経費計上による出口戦略を実践した場合と、しない場合の法人税等をシミュレーション結果とともに比較しましょう。
シミュレーションでは、掛金額は年200万円、納付期間は4年間(48ヵ月)を想定しています。
①退職金を計上した場合
こちらは、「退職金の支給時期と、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約年度を重ねる」ことで出口戦略としたケースです。
項目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 (解約年) |
---|---|---|---|---|---|
事業上の利益 | 500万円 | 500万円 | 500万円 | 500万円 | 500万円 |
掛金 | -200万円 | -200万円 | -200万円 | -200万円 | ― |
解約手当金 | ― | ― | ― | ― | 800万円 |
退職金 | ― | ― | ― | ― | -1,000万円 |
課税対象の利益 | 300万円 | 300万円 | 300万円 | 300万円 | 300万円 |
法人税等(24%の場合※) | 72万円 | 72万円 | 72万円 | 72万円 | 72万円 |
※仮に24%として試算した場合になり、実際の税率とは異なります。
退職金で1,000万円の経費計上ができれば、解約手当金(解約返戻金)の800万円だけでなく、これまで掛金として経費計上してきた200万円分も相殺できます。
結果、法人税等は中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約前後で変わらず、72万円に抑えられています。
②退職金などを計上しない場合=そのまま受け取る場合
こちらは、一切の出口戦略を実施しなかった場合のシミュレーション結果です。
項目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 (解約年) |
---|---|---|---|---|---|
事業上の利益 | 500万円 | 500万円 | 500万円 | 500万円 | 500万円 |
掛金 | -200万円 | -200万円 | -200万円 | -200万円 | ― |
解約手当金 | ― | ― | ― | ― | 800万円 |
退職金 | ― | ― | ― | ― | ― |
課税対象の利益 | 300万円 | 300万円 | 300万円 | 300万円 | 1300万円 |
法人税等(4年目まで24%の場合※) | 72万円 | 72万円 | 72万円 | 72万円 | 362万円 |
※4年目までは仮に24%として試算した場合になり、実際の税率とは異なります。また5年目は800万円を超えた部分については約34%として試算しています。
解約手当金(解約返戻金)によって利益が増えるだけでなく、これまで損金計上していた200万円の掛金分もなくなるため、解約年は例年に比べて1,000万もの課税所得が増えています。
結果、法人税等は362万円となり、例年よりも290万円も多く課されます。(※4年間の課税繰延総額は192万円)
法人区分によっては、法人税等の税率が800万円超の部分と以下の部分で異なるため、これまでの掛金の損金計上による繰延効果がゼロになるどころか、マイナスになることもあるので注意が必要です。
③そもそも倒産防止共済に加入しない場合
課税の繰延のために中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の加入を検討している方向けに、こちらのシミュレーションも解説します。
項目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 (解約年) |
---|---|---|---|---|---|
事業上の利益 | 500万円 | 500万円 | 500万円 | 500万円 | 500万円 |
掛金 | ― | ― | ― | ― | ― |
解約手当金 | ― | ― | ― | ― | ― |
退職金 | ― | ― | ― | ― | ― |
課税対象の利益 | 500万円 | 500万円 | 500万円 | 500万円 | 500万円 |
法人税等(24%の場合※) | 120万円 | 120万円 | 120万円 | 120万円 | 120万円 |
※仮に24%として試算した場合になり、実際の税率とは異なります。
5年分の法人税等の総額は、600万円です。
①のシミュレーションでは総額360万円のため、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)に加入しないケースよりも240万円の課税繰延効果を得ているといえます。
②では総額600万円となり、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)に加入しないケースと変わりません。また、先述したように法人区分や所得総額によってはさらに多くの法人税等がかかるケースもあります。
まとめ|比較から導き出される中小企業倒産防止共済の上手な解約方法
3つのシミュレーションを比較すると、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)の解約には出口戦略が重要であることが分かります。
特に掛金の経費計上による課税の繰延効果を狙って中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)を採用していた企業は、注意が必要です。
出口戦略なしに安易に解約してしまっては、これまでの課税の繰延を無為にしかねません。
経費計上によって解約手当金(解約返戻金)による利益を相殺する方法や、相殺しやすいタイミングをよく模索したうえで解約時期を見定めましょう。
合わせて検討したい「退職金」や「退職金制度」とは?
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)と一緒に検討しておきたいのは、「退職金」や「退職金制度」です。
そこで、中小企業も導入できる退職金制度や企業年金制度を紹介します(小規模事業者向けの小規模企業共済はこちら)。
中小企業も導入できる退職金制度
中小企業も導入できる退職金制度として、「はぐくみ企業年金」「企業型確定拠出年金」「中小企業退職金共済」の3つの候補があります。
まず、下表をご覧ください。
主要退職金制度の比較
はぐくみ企業年金 | 企業型確定拠出年金 | 中小企業退職金共済 | |
---|---|---|---|
根拠法 | 確定給付企業年金法 | 確定拠出年金法 | 中小企業退職金共済法 |
任意加入 | 可能 | 可能 | 全員加入 |
加入年齢 | 70歳未満 | 70歳未満 | 制限なし |
加入制限 | 役員も拠出可 | 役員も拠出可 | 役員は拠出不可 |
税制優遇 | 有り | 有り | 有り |
社会保険料 | 軽減可 (※1) | 軽減可 (※2) | 軽減不可 |
掛金拠出 | 会社の実質的な負担を抑制 (※1) | 会社が負担 (※2)
(会社負担分は損金計上可) |
会社が負担 (会社負担分は損金計上可) |
拠出金 上限/月 | 1,000円~給与の20% (上限40万円) | 1,000円~55,000円 ※iDeCoと併用の場合、上限額が変わります | 5,000円~30,000円の16段階 (※3) |
運用 |
基金が資産を運用 |
加入者が資産を運用 | 機構(※4)が資産管理・運用 |
受給額 | 運用成績により変動しない | 運用成績により変動する |
運用成績により変動しない |
受取り | 一時金又は年金/ 退職時、休職時、 育児・介護休業時にも受取り可能 | 一時金又は年金/ 但し、原則60歳以上に制限 | 一時金又は分割払い/ 退職後に受取り可能 |
※2:「選択制」を採用した場合、軽減できることがあります。
※3:パートタイマーなど短時間労働者の場合、特例掛金月額として2,000円から可能になります。
※4:ここでは「独立行政法人 勤労者退職金共済機構」のことを「機構」といいます。
おすすめは「はぐくみ企業年金」
はぐくみ企業年金は、現在、導入企業や加入者が急増している注目の企業年金・退職金制度です。
選択制などの制度設計により、会社負担を少なく始められるなど、従業員、経営者、会社そえぞれにメリットが生れるとてもおすすめの制度です。
まとめ記事で11の選択肢を紹介
こちらのまとめ記事で、退職金制度の選択肢を11件まとめて紹介しています。
他の制度のメリットやデメリットを体系的に比較・検討することができます。
※こちらの記事は2024年2月時点の情報を参照の上、執筆しております(2024年9月一部更新)。
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