「法人保険を利用すると、リスクに備えつつ退職金の準備もできて節税可能まである」といわれたら魅力的に聞こえますよね。
しかし実際のところ、法人保険のメリットや活用法は様々で、節税効果はそのうちの一部です。法人保険が自社の目的や解決したい課題に本当に適しているか慎重な判断が必要です。
この記事では、法人保険の節税のための損金算入ルール、メリットやデメリットを解説します。
この記事を通して、自社にとって法人保険への加入が適切なのか判断する際の参考にしていただければ幸いです。
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法人保険の基本
法人保険とは、法人が契約する保険を指します。
法人保険の種類は大きく分けて3つです。第一分野の生命保険と、第二分野の損害保険、さらに第三分野の保険の3種類があります。以下の表で、各保険の特徴を紹介します。
法人保険の種類 | 保険の目的と概要 | 代表的な保険の例 |
1.生命保険 | 経営者や従業員の死亡に備えるための保険。
貯蓄性がある商品も存在し、勇退時の退職金準備や福利厚生に活用されることもある。 |
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2.損害保険 | 法人が事業活動を行うなかで生じる事故に備えるための保険。
<リスク例>
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3.第三分野の保険 | 経営者や従業員の病気やケガに備えるための保険。
生命保険と損害保険の中間的な位置づけ。 生命保険会社・損害保険会社ともに取り扱っている。 |
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なお、上記の各保険に掛け捨てタイプと積み立てタイプがあります。
貯蓄性 | 解約返戻金 | |
掛け捨てタイプ | なし | なし |
積み立てタイプ | あり | あり |
貯蓄性とは、保険の保障を受けながら将来に向けた貯蓄もできることを指します。
掛け捨てタイプの法人保険には貯蓄性がなく、途中解約しても解約返戻金はありません。一方、積み立てタイプの法人保険には貯蓄性があります。
解約時には解約返戻金(保険解約時に保険会社から契約者に支払われるお金)が受け取れるほか、養老保険のように満期時に満期保険金が受け取れる保険もあります。
法人保険の節税効果はあるが少ない
法人保険は、生命保険・損害保険・第三分野の保険の保険料を損金に算入することで法人税の節税効果があるといえます。
ただし、法人が保険金や解約返戻金を受け取る際は、法人税の課税対象となる点に注意が必要です。
受け取った保険金や解約返戻金は、保険金や解約返戻金から保険料積立金や配当積立金を除いた全額を、雑収入として益金に算入する必要があります。雑収入として計上されるために課税対象となり、税負担が増大する可能性があるため結果的に節税効果は少なくなってしまいます。
では、なぜ「法人保険で節税ができる」といわれていたのでしょうか。
法人保険が節税できると言われていた仕組み
法人保険で節税が可能といわれていた主な理由は以下の2つです。
- 2019年以前は貯蓄性がある法人保険で、保険料の全額・2分の1・3分の1を損金算入できた
- 保険料の8割から10割以上の解約返戻金がある保険商品が存在した
つまり、以前は高い解約返戻率で貯蓄性がありながら保険料の多くの部分を損金算入出来るという点で、課税の繰り延べ効果(課税される時期の先送り)を狙った保険の活用がなされていました。
ただ、この保険の特性を利用した行き過ぎた節税対策が見受けられるようになったため、金融庁が2019年に保険料の損金算入ルールの見直しを行うようになりました。
2019年の保険商品のルール変更について
2019年7月8日以降に新規加入した定期保険商品と、2019年10月8日以降に新規加入した第三分野の保険商品を対象に、新しい損金算入のルールが適用されることになりました。
新ルールでは最高解約返戻率を基準に損金算入できる割合を以下のように定めています。
最高解約返戻率 | 保険期間開始直後 | 保険期間の40%経過後 | 保険期間の75%経過後 |
50%以下 | 全額損金算入 | ||
50%超
70%以下 |
損金算入:60% | 全額損金 | 全額損金算入したうえで、資産計上したぶんを取り崩して損金算入 |
70%超え
85%以下 |
損金算入:40% | 全額損金 | 全額損金算入したうえで、資産計上したぶんを取り崩して損金算入 |
最高解約返戻率 | 保険期間開始直後 | 保険期間開始から10年経過後 | 最高解約返戻率期間終了後 |
85%超 | 損金算入:10% | 損金算入:30%
資産計上:70% |
全額損金算入したうえで、資産計上したぶんを取り崩して損金算入 |
おおまかにいえば、最高解約返戻率が高い保険商品ほど、契約後直後に損金算入できる割合が少ないという内容です。
契約期間経過にともなって損金算入できる割合は増加しますが、旧ルールのように目先の期間での節税効果は見込めなくなりました。
法人保険の節税以外のメリット・デメリット
2019年に損金算入ルールが改定されて以来、税の繰り延べ効果を狙える保険商品は一部を除いて無くなってしまいました。
しかし、法人保険に加入することで保険の本来の目的でのメリットを得られます。本章では、法人保険を活用して得られるメリットとデメリットを節税効果に限定せず紹介します。
法人保険の3つのメリット
法人保険に加入するメリットは次のとおりです。
- 万が一の備え
- 事業継承や相続の対策
- 経営者の退職金準備
1.万が一の備え
法人保険に加入することで、経営者の死亡、病気、ケガのほか、事業活動にともなう事故発生時などのリスクに対応できるメリットがあります。
たとえば、経営者に万が一のことがあったときに借入金が残ったり、事業資金が不足したりした場合、経営継続が困難になる可能性があります。生命保険などに加入していれば、当面の資金不足をカバーできるほか、後継者の負担軽減が可能です。
また、災害に見舞われた場合や、事故を起こすなどして損害賠償責任が発生した場合でも、損害保険に加入していれば損失を抑えられます。
経営上想定される、あらゆるリスクに備えられるのが法人保険の利点です。
2.事業承継、相続の対策ができる
事業承継に必要な資金をキャッシュで用意できる点は、法人保険のメリットといえます。事業承継では、後継者が事業用資産や自社株式を引き継ぐ際に、贈与税や相続税などの税金が発生します。しかし、後継者が十分な納税資金を用意できているとはかぎりません。
経営者が存命中に事業承継を行う場合、法人保険を解約して解約返戻金を受け取り、納税資金とすることで対策します。
また、経営者が亡くなった場合には、法人に死亡保険金が支払われます。法人から遺族である後継者に支払われる死亡退職金は相続税の課税対象となりますが「500万円 × 法定相続人の数」の金額は非課税です。
死亡退職金は、納税資金に充てるほか、後継者以外の親族で揉めないための遺留分対策金としての使用も可能です。
※解約返戻金が支払われる貯蓄性のある積み立てタイプの生命保険を想定
3.経営者の退職金の積み立て
法人保険は、万が一の事態に備えながら経営者の退職金を準備できるメリットもあります。
経営者の退職金には以下の2種類があります。
- 経営者が亡くなったときの「死亡退職金」
- 経営者が存命中に勇退するときの「勇退退職金」
経営者が亡くなった場合は、法人が契約している生命保険から死亡保険金が会社へ支払われ、会社から経営者遺族へ死亡退職金が支給されます。
一方、経営者が存命中に勇退(退職)する場合は、法人が契約している生命保険を解約することで会社へ解約返戻金が支払われ、会社から勇退退職金が経営者に支給されます。
法人保険の2つのデメリット
法人保険には以下のデメリットもあります。
資金繰りのために加入したはずの法人保険が仇とならないよう、デメリットについても把握しておきましょう。
- キャッシュ・フローが悪化する可能性がある
- 解約時期によっては解約返戻金が払い込み保険料を下回る
1.キャッシュ・フローが悪化することがある
保険料の支払いによりキャッシュが減少することから、キャッシュ・フローが悪化する可能性があります。手厚い保障を求めれば、当然ながら支払う保険料の金額も大きくなります。
業績が悪化した場合に保険料の負担感が増大する、保険料のせいで事業資金の余裕がなくなる、といった事態になっては本末転倒です。長期間に渡って支払い続けられる保険料かどうか、経営を圧迫しない金額かどうかを考えながら、補償内容とのバランスを考えなければなりません。
2.解約時期によっては解約返戻金の額が払い込み保険料よりも少なくなる
退職金準備や事業資金調達を目的に解約返戻金のある法人保険を契約する場合、解約時期によっては払い込んだ保険料よりも受け取れる解約返戻金が少なくなる可能性があります。
解約返戻率が最も高くなる時期は保険商品によって異なりますが、数年から数十年かかるのが一般的です。契約して2~3年と短い期間で解約したり、解約返戻率がピークとなる時期を超えてから解約したりすると、払い込んだ保険料よりも解約返戻金が少なくなります。
法人保険で退職金や事業資金の準備をする場合は、解約の時期まで考えて計画的に加入する必要があります。
経営者・従業員の退職金積立に「はぐくみ企業年金」という選択肢も
経営者・従業員の退職金準備には、はぐくみ企業年金を利用する方法があります。はぐくみ企業年金とは、厚生労働大臣の認可を受けて設立された確定給付企業年金(DB)の制度であり、経営者と従業員が加入できる積立式の企業年金および退職金制度です。
高齢期の資産形成を目的とした制度ですが、退職時に退職金一時金として受け取れるため退職金の準備に利用できます。また、はぐくみ企業年金は、加入期間が1ヶ月以上あれば積み立て金の全額を受け取れるため、加入者側の元本割れの心配が不要です。
経営者・従業員は所得税や住民税、社会保険料が軽減でき、結果として法人側には法定福利費(社会保険料など)軽減効果が期待できるメリットもあります。
さらに、はぐくみ企業年金の事業主側の毎月の掛け金は全額損金として計上できます。
詳しい内容については下記をご覧ください。
まとめ
2019年の損金算入ルール改定以来、解約返戻率が高い定期保険で目先の節税効果を得ることは難しくなりました。
法人保険に見込まれるメリットとしては、企業活動のリスクに備える、事業継承や相続対策、退職金準備など、節税以外の事柄があります。一方で、支払保険料によるキャッシュ・フロー悪化や、解約返戻金が払い込み保険料を下回るといった可能性もあり、加入には慎重な検討が必要です。
経営者の退職金準備には、掛金負担を抑えながら運用でき、元本も保証されている「はぐくみ企業年金」を是非検討してみてください。